二つめは、「出血による上咽頭部のうっ血改善」だ。

「上咽頭に炎症があると驚くほど出血をしますが、これは上咽頭粘膜下の細静脈が拡張し、うっ血しているから。ここをこすることで自然に出血します。出血によって、上咽頭にたまっていた炎症物質や老廃物などが除去されます。その結果、脳から排出されるリンパ液の流れが改善し、脳細胞の機能回復につながると考えられます」

 これにより、倦怠感やうつ、不眠などが改善するという。

 三つめは、「迷走神経を刺激して免疫疾患の炎症を抑える効果」だ。

「上咽頭は、自律神経をつかさどる迷走神経が豊富な部位です。この部位への刺激によって炎症を抑制するTリンパ球が放出され、免疫疾患の炎症が抑えられます。理論的には、これによって炎症性腸疾患や関節リウマチなどの自己免疫疾患、自律神経障害による不定愁訴の改善につながります」

 上咽頭は免疫系、自律神経系、内分泌系のすべてに関わっている。そこに炎症があれば、体に異常が起きるのは当然のことかもしれない。それでもEATが普及しているわけではないという。その理由について堀田医師はこう話す。

「EATは単純な治療で、診療報酬が極めて低く設定されているため、ほとんどの医師にとって魅力が乏しい。しかし現在、日本口腔・咽頭科学会などを中心にEATを再評価する動きがあり、今後はさらに研究が進む可能性が出てきた」

 ちなみにEATを体験した私にも慢性上咽頭炎があり、これまで3回、EATを受けている。持病の皮膚炎や腎炎は相変わらずだが、不思議なことに若いころから悩まされていた肩こりは楽になった。痛~い治療は週に1回だが、担当医師によれば自分でできる痛くない治療法もある。

 生理食塩水を使った「鼻うがい」だ。口うがいでは除去できない上咽頭の粘膜からほこりや花粉、細菌やウイルスを取り除くことができる。

 堀田医師は鼻うがいのほかに、湯たんぽで首の後ろを温める「首湯たんぽ」や寝る前の口腔ケア、口にテープを貼って眠り鼻呼吸を促す方法なども慢性上咽頭炎の治療には効果があるという。

 長引く体の不調に悩んでいるなら、一度耳鼻咽喉科で慢性上咽頭炎の有無をチェックしてもらってみるのも一考かもしれない。(本誌・鈴木裕也)

週刊朝日  2021年9月3日号