舞台の台本は、一回自筆でノートに写して、自分だけの台本を作ってから役に没入していくという。一つのことにしか集中できないタイプだから、今回も、前の芝居が千秋楽を迎えるまで、台本を開くのは我慢した。

「初めての本読みのとき、高畑さんのお芝居があまりにも素晴らしくて、度肝を抜かれたんです。高畑さんとは、他にも驚きのエピソードがあって、僕が5歳のとき、父が芸術座で竹久夢二を演じた『本郷菊富士ホテル』という舞台に、高畑さんも出演していらして。イクメンだった父は僕を連れて芸術座に行って、自分の出番のときは楽屋で待たせていたんですが、そのとき高畑さんが自分の出番が来るまでの間、僕と遊んでくださっていたみたいです(笑)。高畑さんからその話を伺うまで、全然記憶になかったんですが、当時の自分を知ってもらえてることにすごく安心するというか。もう身を任せられるというか……。ただ、当時は僕がいちばん暴れん坊だった時期なので、ご迷惑をおかけしてないといいんですが(笑)」

(菊地陽子 構成/長沢明)

週刊朝日  2022年12月2日号