「最初にこの台本に目を通したときは、高畑さん演じるヴェラおばあちゃんと、僕が演じる孫のレオの関係性がすごく素敵だなと思いました。おばあちゃんも心に傷を負っているけれども、家族とコミュニケーションをとることによって、お互いどんどん心を開いていって、前に進んでいく。これといって大きな出来事が起こるわけではない、すごく静かな話です」

 そう言ってから、淡々と、でも独特の熱っぽさで、自分がなぜこの作品に心惹かれるかを説明してくれた。

「また留学時代の話になるのですが、当時演技の先生からよく言われていたのが、『クラスにいる生徒は、それぞれ背負っているものは違うし文化も慣習も違うけれど、それぞれがストーリーテラーとして、自分の人生に起こったことを人に伝えるべきだ』ってこと。その話を聞く前は、僕も自分の人生なんて演劇に比べたらちっぽけで、ドラマがないなと思っていた。でも先生は、『どんな人生であっても、必ず伝えるべきものがあるんだよ』って教えてくれたんです。だから僕も今は、こういう日常的な作品を届けることによって、それを観たお客さんが、『あ、自分の人生もまんざらじゃない』って思ってもらえたらうれしいなって」

 今は、あまり自分のことを他人に打ち明けたりしない時代だ。

「でも、それだと人との関わりがどんどん希薄になってしまう。“自分の人生なんてちっぽけだ”って思っている人にこそ、届けたい作品だなと思っています」

 舞台の設定はニューヨーク。圭人さん演じるレオは、「まるで監獄にいるようだ」「鳥カゴに入ってるみたい」などと語り、都会の窮屈さに辟易する。実際に3年弱ニューヨークに留学していた圭人さんは、そのセリフを読みながら「わかるな」と思ったそうだ。

「ニューヨークは刺激的ですが、とにかく競争がものすごい。僕も、昔はもっとぼやっとしてましたけど(笑)、おかげで多少はタフになったと思います。でも、競争社会で実力主義だからといって、優秀な人だけが勝ち残れるとも限らないのが人生の難しいところ。特にエンターテインメントは、運とかタイミングとか、いろんな条件がそろわないとうまくいかない厳しい世界です。僕の場合は、日本に戻ってきてからコンスタントにお芝居の仕事をいただけていますが、ニューヨークでいろんな人を見てきたからこそ、そのありがたさも身に染みています。だから、少しでも僕が向こうで学んだことを日本の演劇に還元していきたいし、すべての作品に死に物狂いで取り組んでいきたいです。あと、単純にやっぱり僕は舞台演劇がすごく好きなので、その魅力を、一人でも多くの人に知ってもらえたらいいなと思います」

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