気象病とは体に備わる優秀な防衛本能(イラスト:サヲリブラウン)
気象病とは体に備わる優秀な防衛本能(イラスト:サヲリブラウン)
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 目覚めの良い日曜日の朝。さあ、今日は洗濯やら掃除やらいろいろやっちゃうわよ~と、腕まくりをしたところでぐーっと頭が締め付けられるような、嫌な感じが襲ってきました。

 騙し騙し動いてはいたものの、30分もすると、今度は凄まじい眠気が。寝不足でもないのに、ダメだこりゃ。

 重い体を引きずるように寝室へ移動して布団に潜り込み、そこからは寝たり起きたりを繰り返すのみ。ようやく復活したのは、夜の10時を過ぎたあたりでした。

 多分そうだろうとは思いつつ、気圧を調べるとやはり、今日は日中から夜にかけて、グンと気圧が下がっていました。俗に言う気象病でしょう。ここ数年、気圧の変化に体が敏感に反応するようになってしまった。昔はこんなことなかったのにな。

「気象病」と名前が付いたことで、原因不明だった不調の理由がわかってホッとしたのと同時に、自己暗示にかかりやすくならないといいなとも思います。気圧の変化と体調不良に、連動性はあるのですけれどもね。

イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 どうせ自己暗示をかけるなら、実力以上の結果を出せたり、潜在能力を引き出したりするポジティブなものにかかりたい。しかし、たいていの場合、自己暗示はネガティブなものほどかかりやすい。「私はダメだ」とか、「どうせ失敗する」とか、そういう類いのこと。でも、それってよく考えると当然のことです。

 気圧の変化で体調が悪化するくらいですから、人の体は頑丈にはできていません。それでも生きているのは、私たちの祖先は慎重派だったから。

「これを食べたら体に悪そう」とか、「あっちに行ったら危なそう」など、警戒心と呼ばれるものの根源にはネガティブな自己暗示があると思います。食べ物への警戒は、言い換えれば「私の体には悪影響を及ぼす」というネガティブ自己暗示です。「私には問題なさそう」という楽観的なタイプは、場合によっては命を落としていた可能性が高い。

 そう考えると、ネガティブになってしまう時も少し気が楽になります。弱気な自分を責めず、「慎重派だわ~」とほめてあげられる。程度問題ではありますが、便宜的に使う分には有益です。

 具合が悪くてなにもできなかった日も、できなかったことを数えるようなことはせず、「私の防衛本能は優秀だわ」と思うことにします。

AERA 2022年11月28日号