ただし現状のままメジャーリーガー不在では、たとえ正式競技として復活しても、その後の未来がない。必要なのは、ハーパーのように五輪参加に熱を持った大物選手たちが声を上げ続け、スーパースターたちが結集する五輪を一度でもいいから実現すること。これが将来に渡って五輪参加の価値と意義を高めることは、MLBと同じく北米の四大プロスポーツに数えられるバスケットボールのNBAが実証済みだからだ。

 バスケットボールでプロの参加が初めて認められた1992年のバルセロナ五輪で、アメリカ代表は「ドリームチーム」の結成に成功した。マイケル・ジョーダンやマジック・ジョンソン、ラリー・バードら殿堂入りクラスの名選手たちの活躍による金メダル獲得は、間違いなくバスケットボールの世界的普及に大きな影響を及ぼした。

 五輪期間がシーズンオフのNBAとシーズン中のMLBを同列に扱うのは難しいかもしれない。だがアメリカでの開催ならば、移動によるメジャーリーガーへの負担が少ないのは大きな追い風と言える。そこでアメリカの選手だけでなく、MLBで大勢が活躍するドミニカ共和国やベネズエラなど中南米の選手たちも母国の代表としてしのぎを削り合い、日本や韓国なども一緒になって大きなうねりを生み出せれば、野球競技を取り巻く情勢が変わるかもしれない。

 そこで潮目が変われば、野球文化があまり根付いてないとされる欧州でも野球に興味を持つ人たちはきっと増える。そもそも欧州は完全な野球不毛地帯ではなく、東京五輪の予選だった2019年ヨーロッパ野球選手権大会ではオランダやイタリアといったWBCなどでお馴染みの国だけでなく、スペインやドイツ、チェコにイギリスやフランスなども参加していた。アフリカでも野球選手権大会は開催されており、南アフリカが優勝した19年はウガンダ、ジンバブエ、ブルキナファソが名を連ねていた。

 これらの国はまだまだ日本やアメリカなどトップクラスの国との実力差は大きいが、競技人口が増えれば代表チームの実力も上がり、それがまた競技人口を増やす好循環に必ずつながっていく。かつてサッカーのワールドカップ出場が夢のように感じられた日本が今や出場常連国となったように、野球でも世界のどこかで同じことが起こるかもしれない。野球が世界的スポーツとして認められるということは、つまりこういうことなのではないだろうか。(文・杉山貴宏)

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