久保は女性たちと華麗なデートを繰り広げ、毎回、最後に「薔薇を渡せなくてごめんなさい」と数人を振り落とす。大抵の女性は目に涙を浮かべ、時には「ほんと見る目ないですね」と捨てぜりふを残して去っていく。ある意味つらい立場である。タレントやモデルなどさまざまな経歴を持つ女性たちが「結婚したい!」と夢中になるには、誰もが納得するスペックを備えていなくてはならない。

■東大卒のハイスペック

 久保は東京大学大学院を出て米系コンサル会社A.T.カーニーに入った。12年には女性向け通販サイト「MUSE&Co.(ミューズコー)」を設立。その後売却し、CLASを立ち上げた。バチェラーの出演時点で社会的地位が確立していたかどうかはさておき、冒頭に書いた通り「イケメン」であり、趣味のキックボクシングで体も鍛え上げられている。ため息が出るようなハイスペックだ。

 番組に登場した久保はタキシードやスーツに身を包み、クルーザーやプライベートジェットの前に颯爽(さっそう)と現れた。番組の外に出ても、彼にふさわしい場所といえば、六本木ヒルズや東京ミッドタウン、あるいは西麻布や南青山の瀟洒(しょうしゃ)なマンションにあるオフィスが思い浮かぶ。しかし実際に彼がいるのは、薄暗くて埃(ほこり)っぽい倉庫の中。そのギャップに戸惑った。

 久保が今、夢中になっているビジネスも、驚くほど地味である。サブスクと横文字で書けば今風だが、その実態は泥臭い。

 利用者は月440~数千円で家具や家電製品を借りられる。料金には配送料、設置料、保険料も含まれていて、季節や好みに合わせて衣替えをするように家具や家電を取り換えられる。

「所有」するのは面倒だが「利用」はしたい。カーシェアやシェアオフィスと同じ種類のサービスだ。家や車を持つのが成功の証しで、ローンに追いまくられたのが筆者らバブル世代。だが子供たちは物を持たず、ローンも組まず軽やかに生きる。

「『暮らす』を自由に、軽やかに」。CLASのビジョンは、そんな若者世代の価値観を見事に捉えている。

 だが、サービスを提供する作業は至って地道だ。センスのいい家具や家電を見つけて仕入れる。倉庫に戻ってきた製品は新品同然に修繕し、新たな借り手が現れれば、すぐに送り届ける。手間がかかる割に儲(もう)けは薄い。

 なぜ久保ほどの「ハイスペックな男」が、地道なビジネスを喜々としてやっているのか。その謎を解くには、久保の生い立ちまでさかのぼる必要がある。

(敬称略)(ジャーナリスト・大西康之)

AERA 2021年9月13日号より抜粋