

かつての起業家が「意思ある投資家」として、次世代の起業家を育てる。そんな循環の中心にいる人々に迫る短期集中連載。第1シリーズの第4回は、家具や家電を定額で貸し出す「CLAS(クラス)」代表取締役で、「初代バチェラー」でもある久保裕丈(40)だ。AERA 2021年9月13日号の記事の1回目。
【写真】東京湾岸沿いの倉庫にはサブスクリプションで貸し出す家具や家電が所狭しと収められている
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「日本一、薔薇(ばら)とシャンパンが似合う起業家」に会うため、東京都江東区新砂に向かった。
東京湾を埋め立てた広大な土地には倉庫や工場がずらりと並ぶ。アマゾンや楽天といったネット通販が急伸し、倉庫の増加も凄(すさ)まじい。シンガポールの物流系企業GLPが運営する「新砂2号棟」もその一つだ。
8月上旬のよく晴れた朝。まだ9時というのに外は猛烈な暑さだ。貨物用の巨大なエレベーターを5階で降りると、天井まで届きそうなラックにソファや椅子や冷蔵庫や洗濯機がうずたかく積まれている。その裏ではヒューンという機械音が鳴り響き、何かを削っているようだ。倉庫内は30度を超す。事務机が並ぶ一角では業務用の巨大な扇風機がうなりを上げている。
「おはようございます。早くからすみません。昼になると、ここの暑さはちょっとヤバいんで」
■初代バチェラーに抜擢
その男が現れた瞬間、薄暗い倉庫の中でその場所だけがパッと明るくなった。扇風機が運んでくる潮風を顔に受け、長い髪を軽くかき上げる。明らかに「見られること」を職業とする人の所作だった。非常階段の向こうに見えるヨットハーバーの方がはるかに似つかわしい。
久保裕丈(40)。家具や家電を「月額いくら」で貸すサブスクリプションサービスを手がける「CLAS(クラス)」を2018年に立ち上げた創業社長だ。動画配信サービス「Amazonプライム・ビデオ」の恋愛リアリティーショー「バチェラー・ジャパン」の初代バチェラー(独身男性)と紹介した方が分かりやすいかもしれない。
この番組は社会的地位を確立した才色兼備の独身の元に集まった25人の異性が、2カ月にわたって非日常的な空間でゴージャスなデートを繰り返し、誰がバチェラーの心を射止めるかを競う。毎回のデートの最後にある「ローズセレモニー」で、薔薇を渡された異性だけが次の回に進める。02年に米国で配信が始まるや大ヒットとなり、日本でも17年から同じフォーマットの番組が作られることになった。