ニューヨーク・タイムズ紙によると、米CDCや米食品医薬品局(FDA)の専門家からも、バイデン大統領の方針転換には批判が出ているという。欧州CDCと同様、未接種者への接種を優先し、ブースター接種の対象者は絞るべきだというのだ。
米CDCの予防接種諮問委員会(ACIP)は8月30日に開いた会合で、政府への助言をまとめる際に、次のような点への考慮が必要だと示した。▽ブースター接種の必要性▽ブースター接種のベネフィットと有害性の比較。
■副反応の検証まだ
感染者数増加がワクチン効果の低下によるのか、デルタ株にワクチンが効きにくいからなのかを識別するのは難しいが、必要性を検討するには、できるだけ分けて評価する必要がある。また、年齢や持病の有無、感染者に接する機会が多い職業かどうかなど、属性により必要性がどう異なるかも考えるべきだ。
3回目接種後に予想される副反応と、得られるであろう効果の大きさの比較も欠かせない。
ACIPはさらに、ブースター接種に使うワクチンの種類や接種量、優先順位の検討も必要だと指摘する。
実際に接種を始めた国で効果を検証したのは今のところイスラエルだけだ。テルアビブ大学などの研究チームは、一般の60歳以上にブースター接種が始まった時点で接種対象だった約114万5千人について、保健省のデータベースを使い、7月30日~8月22日の感染状況や入院率などを比較した。
チームが8月27日に公表した、公式に科学誌に掲載されていない論文によると、ブースター接種を受けた人は2回接種だけの人に比べ、感染リスクの減少が約11倍、重症化リスクの減少は10倍以上大きくなっていた。研究チームは「ブースター接種により感染も重症化も防ぐ効果が増強できる」とした。
ただし、副反応についてはまだ検証されていない。
国内でワクチン接種を完了した国民は9月8日時点で約50%。専門家で構成する新型コロナウイルス感染症対策分科会は8日、政府に対し、自治体の予算や人員体制への影響も考慮した上で、科学的知見に基づき、ブースター接種についての方針を早急に示すよう求めた。
ワクチンに詳しい東京大学医科学研究所の石井健教授はこう断言する。
「免疫抑制状態にあるといった例外的な人への3回目の接種は、国内でも必要です。それ以外は、国内だけでなく国外についても、接種対象者全員が1度は接種を完了するまで、ブースター接種は必要がありません。アフリカではまだ人口の5%程度しか接種を受けていないなど、世界にはワクチンがほとんど届いていない地域がたくさんあります。グローバル化した現代、世界のどこかで流行が続く限り、パンデミックは終息しません。ブースター接種するワクチンを持っている国は、ワクチンがない途上国に回すべきです」
(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)
※AERA 2021年9月20日号