無呼吸になり、低酸素の状態が続くと血管内の細胞が炎症を起こし、血管がダメージを受けて動脈硬化が進行する。心臓は低酸素の状態を改善するために心拍数を上げて十分な酸素を供給しようとするため、血圧が上がる。さらに、一晩のうちに何度も無呼吸が起こると、急激な血圧変動がくり返される。このような血管へのダメージや血圧の上昇、心臓への負担などにより、高血圧症や心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、心不全など)、脳血管疾患(脳梗塞や脳出血など)が起こりやすくなると考えられる。

 心血管疾患を合併すると突然死を引き起こすリスクも高まり、さらに認知症やうつ病との関係も指摘されている。これでは、「単にいびきがうるさいだけの病気」とは考えられなくなるだろう。

 SASの最大の症状は「いびき」だが、本人は気づかず周囲から指摘されることが多い。患者が自覚できる症状には、眠気、頭痛、疲労感などがあるが、いずれもSAS特有のものではなく、それだけで受診につながる症状とはいえない。虎の門病院睡眠呼吸器科医長の富田康弘医師は「症状からSASを自覚することは困難」と話す。

「例えば、夜間の頻尿が気になって泌尿器科を受診するなど、最初は別の病気を疑って受診し、調べてみたらSASだったということも珍しくありません」(富田医師)

 SASでは、無呼吸をくり返すことで、尿の量を調整するホルモンに影響があり、頻尿になることがあるのだ。

■気になる症状があれば受診を

「眠気も主観的なものなので、『眠気を感じることはない。仕事中の居眠りもない』という人が通勤電車の中で眠っていることもありますし、昼食後には誰もが眠くなるからそれは自然なことと考える人もいます。生理的な眠気と病気による眠気を自身で見分けることは難しいでしょう」(同)

 そのため、SASの診断には医療機関での専門的な検査が欠かせないが、SASであることに気づかず、あるいは自覚があってもたいしたことと捉えず受診しない患者は多い。SASの潜在患者数は400万~500万人と推定されるが、代表的な治療法とされるCPAP療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法)を受けている患者数は約56万人と、10分の1程度だ。では、早期発見のためにはどうすればいいのか。

 両医師は、(1)大きないびきや睡眠中に呼吸が止まっていることを指摘される(2)日中に強い眠気を感じる(3)ある程度の睡眠時間を確保しているのに疲れがとれないと感じている(4)起床時に頭痛や倦怠感がある(5)太っている(BMI25以上)(6)高血圧や糖尿病などの生活習慣病を患っている、という人は一度医療機関を受診してほしいと話す。

 近年では、睡眠中のいびきを記録できるスマートフォンのアプリも登場している。

「早期発見のためには、日ごろから自分の眠りを意識することが大切。眠いと感じたら睡眠時間を気にしてみる、アプリを使っていびきをチェックしてみるなど、睡眠に目を向けてもらいたいと思います」(同)

 SASの診療は、内科、呼吸器科、循環器科、耳鼻咽喉科などでおこなわれるが、専門的な検査や治療が受けられる病院は多くない。日本睡眠学会のホームページに、学会が認定する専門医療機関の一覧が掲載されているため、参考にしたい。

(文・出村真理子)

※週刊朝日2021年9月24日号より

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