前作で築いた信頼があるからこそ、「今、彼女は何をしているんだろう」「彼女に話しかけたあいつは誰だろう?」という、今作ならではの新田の行動になっていると思いますね。
■関係に余白がある
──今回は、恋愛への発展を想像させるシーンもあります。
新田も男性なので、あれほど魅力的な山岸尚美は、一人の女性として見ているでしょうね。でも、ド直球な恋愛でもない。原作者の東野圭吾さんが描くマスカレードシリーズの男女関係には余白がある。大人の空気感というか。
恋愛感情よりも先に彼女へのリスペクトがあるから、ホテルでの振る舞いを口うるさく指摘されても、「ああ、だよな」と新田は受け入れられる。お互いの理解があって成り立っている男女だよなぁ、と思います。
今回は彼女に危険が迫る瞬間があって、そのときに新田がめぐらせた思いは、前作にはない感情だった気がしますね。
──華やかな仮面舞踏会になるパーティー会場にも新田は捜査のために乗り込みますね。
新田の趣味とも関係するシーンです。原作にもあるんですけど、台本を読んだときも、「なんで急にアルゼンチンタンゴなんだ。父親からどんな教育を受けていたんだ、お前は」と(笑)。
刑事らしからぬ余暇の過ごし方に、新田にそんな面があったのかという驚きは、正直、大きかったです。
アルゼンチンタンゴは初めての経験だったんですけど、踊りのルールをストーリーにもっと反映できると気づいて、鈴木雅之監督に伝えたこともありました。撮影現場では、そんなふうに、サッカーで言えばパスから次のパスにつながるような、ストーリーをふくらませる演技のアイデアがたくさん浮かんで。監督承認で、めいっぱいやらせてもらいました。
■思いやりのベクトル
──アルゼンチンタンゴのレッスンも初体験だったんですね。
いろいろなダンスをかじってはきているから、なんとかなるだろうと、すごくカジュアルなモチベーションでレッスンに行ったら、反動がでかくて。「今、お持ちの物、ぜんぶ必要ないのですべて置いてください」って感じでスタートしたんです。あまりにも踊れなくて、この年になっても、まだこんな思いをするんだ、と。本当に久々に落ち込みました。