そう叫ぶや否や、実弥は箱もろとも禰豆子を日輪刀で突き刺した。この実弥の行為に反応したのは、義勇、しのぶ、蜜璃、そして炭治郎だった。禰豆子は苦痛の声すら発することもできない。
ここまでの場面から分かるのは、おそらく禰豆子についてはできる限り裁判の場には連れ出さない予定だった、ということだ。そして、それを指示していたのは蟲柱の胡蝶しのぶだったと思われる。鬼殺隊後方支援を担当している「隠」(かくし)が禰豆子の箱を戻すように実弥に頼んでおり、さらにしのぶにむけて「胡蝶様 申し訳ありません…」と謝っているからだ。また、実弥に対してしのぶは「不死川さん 勝手なことをしないで下さい」と普段の笑顔とは異なる厳しめの表情で、その行為を牽制した。
しかし、実弥は「鬼化した禰豆子と、それを連れている炭次郎」への怒りを止めることはできなかった。伊黒も実弥と同じような意見で、同様の態度を見せている。
■加速する実弥の怒り
実弥は鬼殺隊の総領である産屋敷耀哉(うぶやしき・かがや)には大恩があり、信頼していた。しかし、その尊敬するお館様・耀哉が「炭治郎と禰豆子のことは私が容認していた」と答えたため、驚きを隠せなかった。
<鬼を滅殺してこその鬼殺隊 竈門・冨岡両名の処罰を願います>(不死川実弥/6巻・第46話『お館様』)
耀哉は禰豆子容認の根拠として、冨岡義勇とその師である鱗滝左近次(うろこだき・さこんじ)が、竈門兄妹の助命嘆願のために切腹をかけているという手紙を読み上げさせた。同じ柱として、ともに鬼の滅殺に命をかけてきた義勇までもが、鬼をかばっていることが、実弥にはどうしても理解できない。
鬼殺隊の構成員たちは、ごくわずかな者をのぞいて、ほとんどが家族や兄弟、恋人や友人など、大切な人間を鬼に食われている。鬼のいない世を作るために、鬼殺隊の隊士たちは命をかけて戦っているのだ。最前線で戦う実弥は死にゆくたくさんの仲間たちを目にしている。感じている責任の重さも並大抵のものではないだろう。