心は男性でもあり女性でもある。そして身体が男性であることには違和感がなく、男性を愛する(撮影/石動弘喜)
心は男性でもあり女性でもある。そして身体が男性であることには違和感がなく、男性を愛する(撮影/石動弘喜)
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 アーティスト、西村宏堂。ずっと孤独だった。セクシュアリティーについて心ない言葉をかけられ、友人と呼べる人は少なく、アトピーに悩んだ。高校卒業後に渡米し、モノクロームだった世界が鮮やかな色に反転。自分が自分らしく生きることに価値があり、心から自由だと感じられた。僧侶であり、メイクアップアーティストでもあるが、西村宏堂として自分らしく生きることで、悩み傷ついた人に寄り添いたい。

【写真】できたてほやほやのレインボーステッカーの完成を喜ぶ西村さん

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 シンデレラが好きだった。「こうちゃん、女の子よ」と言っていたことも覚えている。幼稚園では集団遊びが苦手で、一人でお絵描きをしていた。寂しかった──。

 初対面のその日、西村宏堂(にしむらこうどう)(32)は黒い僧衣でにこやかに現れた。寺の周囲にはマンションや高層ビル。庭に木々が茂り、墓地が続く。浄土宗のこの寺を実家に育ち、幼稚園にもここから母親に連れられて通った。

 18歳から11年を米国で過ごし、メイクアップアーティストとしてミス・ユニバース世界大会に参加してきた。同性愛者であることを公表し、LGBTQのアクティビストでもある。

 活動のトピックを見てみると、メイクの仕事の主戦場はアメリカだったが、コロナ禍で国内にとどまるこの2年はミス・ユニバース日本代表のメイクアップ指導に携わっている。

 2019年春にはニューヨークの国連人口基金本部でスピーチを行った。LGBTQの人権は国連人口基金にとって重要なテーマのひとつだ。駐日事務所長・佐藤摩利子は初対面で宏堂に独自の存在感を読み取り、本部に企画を通した。

「当事者で僧侶の宏堂さんが仏教の平等観に基づいてLGBTQ理解を説けば、社会を変えるメッセージになるでしょう。人の心にあんなにしっかりと届く言葉で話す人をダイバーシティー後進国の日本から送り出すインパクトは大きかった」

 僧侶としての宏堂は、今年6月、浄土宗の研修に講師として招かれ、また、全日本仏教会のLGBTQ啓蒙(けいもう)ステッカーの制作にも関わった。

 いつのときも宏堂は心にアプローチする。そして黒い僧衣の神秘的な佇(たたず)まいは仏教への憧れを掻き立て、外国メディアが放っておかない。

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