タバコの小売り許可は様々なハードルがあるが、出張販売については、すでに小売りの許可を持っている業者から、出張販売の委託を受ける形で許可が取れる。その手続きを有料で仲介・代行する業者が複数おり、冒頭の居酒屋も利用していた。

 店は入り口などに「喫煙目的店」であることを明示する必要がある。また、20歳未満の客は店に入れず、未成年の従業員を雇うこともできないが、店の経営自体に、さほどの影響はない。

 主食の提供禁止についても、ルールには曖昧さが残る。厚生労働省は米やパン、麺類、ピザやお好み焼きを例示している一方、菓子パンや電子レンジで加熱するだけの食事は主食とみなさないとしている。

 喫煙目的店を掲げた都内の別の大衆居酒屋のメニューを見ると、「おにぎり」や「焼きそば」が堂々と載っていた。男性オーナーは「問題ないと判断しています」とだけ答えたが、こうした店は他にも複数あり、ルールの運用が店側任せになっている実態が垣間見える。

 コロナ禍による緊急事態宣言により都内でも大半の居酒屋は休業しているが、都の担当者もこうした動きが進んでいることは以前から把握しており、「シガーバーなどを想定して作られたルールですから、本来の趣旨から逸脱しているのは明らか。都としても問題だととらえています」と話す。ただ、「法律上の『喫煙目的施設』の要件は満たしていますので、どう見ても居酒屋だったとしても、『タバコの販売を主な目的にしている』と店側に主張されたら、都としては何もできないのが現状です。厚労省に対し、どのような客観的な要件をもって『喫煙を主目的の店』とするのか、定義の明確化を求めているところです」と、規制に踏み切れない現状に危機感を募らせる。

 タバコの販売許可をとった店は、本当にタバコを売っているのだろうか。

 冒頭の居酒屋の店主に聞くと、「喫煙目的店の形を保つため、仲介してくれた業者からは毎月、一定の数のタバコを(小売り)業者から買うようにアドバイスされてますので、もしお客さんに頼まれたらですが、ちゃんと売れる状態にはありますよ」と答え、こう推測した。

「緊急事態宣言が終わったら店がどんどん開くんだろうけど、お客さんに戻ってきてもらうために『喫煙目的店』にする店は増えていくんじゃないかな。コロナで大打撃を受けている状況で、タバコが吸えないからという理由でお客さんが減ったら絶望的ですから。こういうやり方があって助かりましたし、もともと喫煙者が多い店だからみなさんにも喜んでもらってますよ」

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