──高橋さんたちのきめ細かいケアもアーティストの日本の印象をよくしているのでは?

「リクエストされたら、ベストを尽くして応えるのが弊社のモットーです。難しいリクエストでも、最初から諦めず、可能な限りトライする。どうしてもできなかったら、なぜできないのかの理由をはっきり伝えます。アーティストとのリレーションで一番大切なのが、絶対に嘘をつかないことだからです」

──それでも困ったことはありましたか?

「僕は困ったと捉えず、『新しい体験だから』と前向きに解決策を探すタイプ。そのほうが仕事は楽しい。彼らもステージに関しては絶対ですが、滞在中の生活は、100%マストなものを求めていないことも多い。誠実な対応で乗り越えられることも多いんです」

──アーティストのお国柄を感じたことは?

「米国人はチャレンジ精神があるから、割と柔軟に受け入れてくれます。英国人は自分の世界観から外れたことにノーと言うことも珍しくない。

 クイーンのブライアン・メイのソロツアーを担当したとき、食事でこんなことがありました。オーダーを取るときに『ビール飲みたい人ー』と手を上げてもらったんです。そうしたら、ブライアンが『なんだ、そのオーダーの仕方は?』と驚いて。彼は立食など、ウェーターがオーダーを取りに来る以外の食事スタイルが苦手だったみたいです。アーティストの好みや世界観を知って認めることも我々の大切な仕事です。そのときも『こういう人なんだ』と学びました」

──高橋さんたちが築いてきたノウハウも今、コロナで生かす場が減ってしまいました。

「来日公演が難しい状況ですが、可能になったときにすぐに動けるように万全の準備はしています。ただ、予定の会場を押さえられるかの予測がつきません。どうしても邦楽のほうが有利ですから。コロナ禍で痛感したのは、洋楽コンサートへの社会的な理解度の低さです。邦楽はまだましで、洋楽に対してはセーフティーネットがまったくありません。そこが音楽を大切な文化と考え、国がしっかりと支援してくれる英米と大きく違います。プロモーターがどんな役割を果たせるのか。どう国などの行政に働きかけるべきか、模索しているところです。もっともっと洋楽コンサートの文化を愛してほしいですね」

(ライター・角田奈穂子)

週刊朝日  2021年10月8日号