東京五輪終了後、記念写真を撮る筆者(中央左)と大橋悠依(同右)ら=8月1日 (c)朝日新聞社
東京五輪終了後、記念写真を撮る筆者(中央左)と大橋悠依(同右)ら=8月1日 (c)朝日新聞社

 私の指導者としての特徴を考えると、別のことをやりながら本業をやってきたことに思い当たります。

「余計なことはやるな」と言われると、何言ってんだ、とますますやる気が出ます。北島とアテネ五輪を目指していた時期に、中村礼子の移籍を受け入れたときも、多くの人から「余計なことをするな」と反対されました。でも、そのときは「今のエネルギーに触れれば礼子もメダルが取れる」と考えました。2大会連続の五輪銅メダルは、そうして生まれました。

 その後も指導しながら大学院で学んだり、競泳委員長とヘッドコーチを兼任したり、「これだけ」というのは性に合わないのです。

 意識的に複数の難しい仕事へのチャレンジを続けてくると、まったく違う仕事に共通の考え方があることに気づきます。複合プロジェクトを長くやっているから、いろいろなものに対する普遍性を考えるようになったのかもしれません。

 私は東京の下町、足立区の五反野にある洋服店の家に生まれました。両親、祖母、住み込みのお針子さんが、いつも働いていました。日常すべてが仕事に結びつく考え方は、ここで育まれました。今回で2020年1月からの連載は終わります。人を指導する立場の方のコーチングに、少しでも役に立つ連載になっていたなら、こんなにうれしいことはありません。

(構成/本誌・堀井正明)

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/東京五輪競泳日本代表ヘッドコーチ。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる』(小社刊)など著書多数

週刊朝日  2021年10月8日号

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