※写真はイメージです (GettyImages)
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『やさしい』(中島京子著、中央公論新社 2090円※税込み)の書評をお届けする。

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「98%負ける」と言われる裁判に立ち向かっていった親子の話だ。

 日本で自動車整備士として働くスリランカ出身のクマさんは、震災ボランティアでシングルマザーの保育士ミユキさんと出会い、彼女の娘も認める仲となる。結婚までの経緯を綴る前半は、国境を越えたジグザグの恋物語だが、本当の「波乱」は婚姻直後に起きる。

 結婚式を目前にクマさんは工場の倒産で失業。ミユキさんに心配をかけまいと働き先を探そうとするが見つからない。「在留資格」の期限も切れ、入国管理局に相談に行った彼は、そのまま戻れなくなる。「不法残留者」として入管施設に収容されてしまったのだ。

 ここから「夫(父親)」を取り戻すための家族の闘いが始まる。入管行政の問題点、絶句するような審理のやりとり、入管相手の裁判の様子など、外国人処遇のリアルな姿を描き出している。(朝山実)

週刊朝日  2021年10月8日号