永田和宏さん
永田和宏さん

 山に入ったらほんとに見つけて、思わず足が滑っちゃったんですね。斜面を転がりました。でもアカヤマドリだけはしっかり握りしめていました(笑)。

 アカヤマドリは焼いても炒めてもおいしく、苦労したかいがありました。

 1984年から86年まで、アメリカ・ワシントン郊外の国立がん研究所に留学していたときにも、キノコを採りました。

 家族でボストンに旅行に行ったら、プラタナスの木があったんです。私はどうしてもキノコに目がいっちゃうんですよね。よく見たらやっぱり生えていて。「おお、ヤナギマツタケや」と、子どもを肩車して採らせようとしたんですよ。するとパトカーが止まって「お前ら何してるんや」と質問を受けました。不審者に見えたんでしょうね。

 毒タケと食べられるキノコとを見分けるのは難しいので、注意が必要です。毒タケにあたったのは、一度だけ。アメリカ留学中のことです。

 あれはたぶんキツネノカラカサだったんでしょうね。NIH(国立衛生研究所)の庭に生えていました。私はキノコ図鑑を何十冊も持っていて、毒タケかそうでないかは、だいたい見分けがつきます。これは怪しいと見たんだけど、チェコスロバキアの科学者が「我々は母国でこのキノコを食べている」と言ったんです。類似のカラカサタケはいい食菌だから、それと間違えたのでしょう。

 家に持って帰りましたが、怪しいから「後で調べるから置いておけ」と言って再び研究所に戻ったんです。でも河野は好きなもんだから、私が帰る前に食べてしまった。それで下痢を起こしたんです。まあ大したことにならずに済んだんですけど。

 うちの家の庭には竹やぶがあって、そこに、まるでレースのスカートをはいたような美しいキヌガサタケが生えるんです。これは中華料理の高級食材ですよね。

 河野が好きだったのでその話をエッセーに書いたら、地元の新聞が毎年のようにうちの庭に取材に来るようになりました。河野がキヌガサタケを見てる写真が、紙面に掲載されたこともあります。秋になると、そのときのことを思い出します。(本誌・菊地武顕)

週刊朝日  2022年11月25日号

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