コロナ禍でも、マルチタスク化が功を奏した。濃厚接触者の発生を避けるためパートやアルバイトを含む従業員40人を4チームにわけ、日勤と夜勤2交代の輪番出勤制に。雇用や給料を維持したまま、少ない人数で業務を回せる体制にした。夜間の警備も兼ねる深夜勤務のメンバーにそれまで担当していなかった調理部門の従業員を充てたことで、ほかの部門の早朝勤務の負担が分散される副産物もあった。現在は輪番制から労働時間を柔軟に変えられる変形労働制に改めたが、2交代制は維持している。

 直近の21年度のグループ全体の売り上げは6.9億円。宮崎さんが女将に就任した直後の10年度(2.9億円)の倍以上だ。コロナ禍の影響を受けた20、21年度は日帰りや宴会、ブライダル部門の打撃が大きかった一方、宿泊部門の売り上げは2億円前後で推移し、コロナ前の水準を維持した。

 自前のシステムは12年から外部にも販売し、今では同業者を中心に450社が導入。その売り上げは21年度に約3億円と、経営を支えるまでに育った。

 復活の理由はもちろんITだけではない。経営再生に向けて打ち出した高級化路線に必要な設備投資や、経費削減のための仕入れ先や原価の見直しといった取り組みもコツコツ積み重ねてきた。宮崎さんは言う。

「ITはあくまで道具で、すべての課題を解決できるわけではありません。特に高級化路線を取る陣屋では、くつろぎやおもてなしといったお客様とのふれあいや人の手によるサービスを重視しています。ITで効率化できた余力をそうした面の努力に充て、これからもお客様の求めに応えられるよう努めていきたい」

 最近は、町ぐるみでITの活用を進める例も目立つようになってきた。城崎温泉(兵庫県豊岡市)は今年6月、宿泊データを温泉街全体で共有し、各旅館の値決めや営業に生かす取り組みを始めた。

 城崎温泉の旅館経営者や豊岡市などが3月に立ち上げた「豊岡観光DX推進協議会」が中心的な役割を担う。旅館に自社や旅行サイト、旅行会社などを通じて予約が入ると、日程や人数、金額、客室の稼働状況といったデータを協議会が構築したシステムで自動的に収集・分析。地域全体の客の動きがわかる情報や指標として、各旅館は見られる。11月時点で加盟する旅館77軒のうち32軒が参加する。

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