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 現代を生きる私たちの多くは、なんらかの組織に属し、組織人として生きている。そして、組織のなかで生きる以上、「人事」は無視できないだろう。それは歴史上の有名人たちも同じことだ。

『人事の日本史』(朝日新書)は、歴史学の第一人者たちである遠山美都男、関幸彦、山本博文の3氏が人事の本質を歴史上の有名人や事件に求め、「抜擢」「派閥」「左遷」「昇進」「肩書」「天下り」など多数のキーワードから歴史を読み解いたユニークな日本通史。歴史ファンだけでなく、ビジネスパーソンも身につまされるエピソードが満載の一冊だ。本書の一部を紹介しよう。

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「毒まんじゅう」は裏切りの密約に対する報酬を意味するかつての流行語だ。

 念のために説明しておけば、平成15年の自民党総裁選において、反小泉純一郎首相派と目された政治家が小泉氏支持に転じたのは、総裁選後の有力ポストを約束されたからではないか、という故・野中広務氏の非難に由来する。

 懐柔のエサとしてのポスト――それを、「毒まんじゅう」と表現したわけだ。

 人事が懐柔の手段に使われるのは、政治の世界だけでなく、今日の会社組織でもよくあることだろう。日本史を振り返っても然りで、その代表例として思い浮かぶのが、源義経である。

 平氏討伐に力を振るった義経は、日本史上の人気ヒーローとして、3本の指に入るだろう。お馴染みの牛若丸と弁慶の話は室町期に書かれた『義経記』に取材したお話ではあるが、能力も実績もあった彼が、兄の頼朝に嫌われ、諸国放浪を強いられた後、非業の死を遂げたのは史実である。

 判官贔屓の言葉どおり、この悲劇の主人公への民衆の人気はずっと高かった。一方、そのせいで頼朝のほうは分が悪い。義経との関係では、どうしても情を欠いた悪役イメージになる。

 だが、そもそも、なぜ頼朝と義経の兄弟は不和となったのか。ご存じの方も多いだろうが、義経が京都から与えられたポストに、頼朝の許可なく就いたからである。しかし、そのことが、なぜそれほど頼朝を怒らせたのか。

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「毒まんじゅう」事件が頼朝の逆鱗に触れた理由とは