作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、この時代に女性が抱えるリスクについて。
【写真】日本の事情は?多くの国でOTC化されているアフターピル
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「私の人生史上、この国で女性として生きることは、今が一番危険」
テキサス州で、事実上、人工妊娠中絶が禁止されたことを受け、俳優のアリッサ・ミラノがそう話していた。アリッサに呼応するように、「テキサスはタリバーンと変わらない」、そんな声がネットには溢れている。先月米国・テキサス州で施行されてしまった法によって、たとえレイプされた結果でも、たとえその相手が自分の父親でも、妊娠6週目以降はテキサスでは中絶ができなくなってしまった。しかも、医師をはじめ中絶に関わった人全てが処罰の対象になる。妊娠6週で妊娠に気づく女性などほぼいないため、これからは中絶するには州をまたがなければいけないが、移動手段と資金と時間的余裕のない女性にとっては地獄の始まりだ。
中絶が厳しく禁止されても、歴史上、女たちは中絶してきた。中絶が認められない国や地域では、病院での安全な中絶を選べないだけで、中絶する女性は減らない。今も世界では毎年推定5万人近くの女性が、安全でない中絶のために死亡している。むしろ、安全な中絶と自由な選択を女性に認め、性教育が充実している国のほうが、望まない妊娠が少なく、結果的に中絶件数は少なくなると言われている。
日本は、WHOが安全でないと警告している中絶方法を強いるクリニックが少なくなく、多くの国で80年代から使用されてきた中絶ピルがいまだに手に入れられず、さらに男性の同意がなければ中絶できず、140年以上前につくられた中絶を罰する刑法が存続している「危険な国」の一つである。
先日も、茨城県の自宅で一人で出産した後、新生児を遺棄した疑いで女子高校生が逮捕された。出産は、安全な中絶よりも何倍もの健康リスクがある。ましてやまだ10代の女の子が誰の助けも借りずに一人で子供を産むなど、想像を絶する痛みと恐怖だったはずだ。その少女は一度も病院に行かなかったという。行けなかったのだと思う。