◆「高校野球に対して明確な見返りを求めてはいけないのか?」
結果のみで評価される米国での競争を勝ち抜いてきた。中南米では貧困層から抜け出すために考えられないほど野球にハングリーな選手たちを見た。勝利の持つ重要性を身をもって経験してきた。現役としての野球人生が終わった今、日本球界が抱える問題点にしっかり向き合いながら対処することの重要性を考えている。マック自身が子供の頃から憧れ続けた甲子園大会、高校野球に対しての感じ方にも変化が生じてきた。
「僕自身、甲子園しか目指してなかった。甲子園へ行ければプロになれると思っていた。だから今、子どもができてからの思いは矛盾している。もちろん大会は必ず見るし資格を持っているので指導もしている。でもあれだけの炎天下の中でプレーすることに関しては健康部分を含めて疑問に思うことが多い。また3年間ずっと練習しても試合に出られず、スタンドで応援して終わるだけの選手の方が多い。子どもの人生だし夢があるだろうけど、親として考えたら何か見返りがあれば良いのにとも感じる。充実感や満足感はあるだろうけど気持ちの部分であって形としては何も残らない。それなら違うことをやろうよ、と言いたくなる。他競技をやるのも選択肢に入れても良い」
「高校野球にすべてを捧げ燃え尽きるのも良い。問題はその次の目標が定まらず惰性のままの子どもが多いこと。高校3年の夏で野球が終わると、その瞬間に虚無感で廃人のようになる。そこから先の人生が長いから早い段階からある程度の準備をしておくこと。高校3年、大学4年野球をやったが試合出場が数試合しかなかったり、スタンド応援だけで終わることもある。でもその7年間で野球が終わっても、英語が話せたり、資格が取れていればその先も変わる。スポーツだけでなく様々なジャンルで戦える人間になる。国内外で次の選択肢が広がる」
「親や指導者、教員など、周囲の大人が現実をわかりやすく具体的に教えることも大事。メジャーリーガーの中にはハーバード大やスタンフォード大出身という学問が超一流の選手もいる。そういう選手はアマチュア時代に周囲から影響を受けている。知人の医者がよく言います。『プロ野球選手、メジャーリーガーには素質も必要で努力だけしてもなれない。でも机に座る時間を長くして勉強すれば医者にはなれる』と。僕も指導している選手の親御さんに言います。『昔みたいに野球だけで進学できる時代ではない。この成績ではダメ、と言われるのは選手と家族が悪くて僕たちの責任ではない』と。本人が理解した上で本気でやればできる。少しだけ勉強を頑張れば選択肢も広がる」
自身は10代の頃に暴力事件を起こし日本で野球ができなくなった。その後は米国を中心に野球だけに専念し結果を求め続けてきた。実体験があるからこそ野球界、日本の将来を真剣に考え始めた。
「プロ野球選手は年取ってもああなれるんだな、と思われる人が増えて欲しい」
現在は2人の息子との時間を最優先しながら、地元関西で野球コーチや指導者を務めている。バランス感覚良く現在を生きているマック。メジャーリーグへたどり着いた時と変わらないのは、経験が大きな武器になっている部分だろう。(文中敬称略)
(文・山岡則夫)
●プロフィール
マック鈴木(鈴木誠)/1975年5月31日兵庫県出身。193cm90kg。92年に渡米、96年7月7日のレンジャーズ戦でメジャーデビュー、98年9月14日のツインズ戦で初勝利を挙げる。マリナーズ、メッツ、ロイヤルズ、ロッキーズ、ブリュワーズなどでプレー。02年にはドラフト2位でオリックス入団。06年から再び海外でのプレーを経て11年は関西・独立リーグでプレーイングマネージャーを務めた。MLB通算117試合登板16勝31敗、防御率5.72。NPB通算53試合登板5勝15敗1セーブ、防御率7.53。
山岡則夫/1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌『Ballpark Time!』を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍、ホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!公式ページ、facebook(Ballpark Time)に取材日記を不定期更新中。現在の肩書きはスポーツスペクテイター。