
「逆に今は好条件だと思って、10億円借りて事業を拡大したんです」
そう語るのはかりゆし58やガガガSPを世に送り込んだ音楽レーベル、LD&K代表の大谷秀政氏。コロナ禍の2020年から2021年にかけて、ライブハウスを4店舗、飲食店2店舗を新たにオープンさせるなど、攻めの経営を続けている大谷氏の、大胆にして繊細な経営手腕に迫る。
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コロナ禍でもっとも大きな打撃を受けた業種は、やはり飲食業とエンターテインメント業界。この1年半のあいだに東京では緊急事態宣言が繰り返し出され、「アルコールを出せない」「営業は20時まで」「ライブの観客数は定員数の半分」など、先が見通せない状態を長く強いられてきた。
この厳しい状況のなか、10憶円もの借金を背負い、カフェやライブハウスを次々と出店している“社長”がいる。「無謀すぎる」「現状が見えてない」といった批判をものともせず、攻めの経営を続けているのが、大谷秀政氏だ。
■コロナ禍で真っ先にしたのは「一人もクビにしない」宣言
東京に最初の緊急事態宣言が発令されたのが、2020年4月7日。東京・渋谷を中心にカフェやライブハウスを展開していたLD&Kも当然、売上がまったく立たない状況になってしまった。まさに危機的な状態だが、大谷氏が最初にやったことは、Twitterでの「うちの社員は一人も解雇しない。店も一軒も潰さない」という宣言だった。
「みんな不安そうな顔してるから、安心させたくて。家賃と人件費で1カ月に1億円飛んでいくんだけど、そのときは3カ月もあれば状況は改善する思ってたんです。なのにいつまでたってもぜんぜんおさまらないから、正直ちょっと焦ったけどね(笑)」
さらに大谷氏は、常識では考えられない行動に出る。金融機関から10億円を借り入れ、7憶を損失補填に充て、残りの3億を使って新たなカフェやライブハウスを出店しはじめたのだ。