
住民票がないので奨学金をもらうことはできず、大学進学率はさらに悪くなる。松沢さんが支援活動を始めてからこれまで、大学や専門学校に進学したのは10人弱。ほとんどが看護師や保育士になるための専門学校で、入学金や授業料などは、会で支援したり、松沢さんが自らの退職金を取り崩したりしてきた。
「日本政府は難民を国内の問題だと言っているが、国際的な問題。命が危ないからと難民申請している彼らを難民として認定し、命を守るべきだ」(同)
■それでも強く夢を抱く
そして今、日本で生まれ育ったクルド人の子どもたちの多くが、高校や大学への進学、就職の適齢期に達している。
蕨市周辺に住む高校1年の女子生徒(15)もその一人だ。数年前、トルコでの迫害から逃れ家族で日本にたどり着いた。地元の小学校に編入すると、じきに友だちもでき、日本語もぐんぐん上達していった。
クルド語、トルコ語、そして日本語の3言語を操る。中学を卒業すると、昼間は来日して困っているクルド人の通訳をするため定時制高校に進んだ。彼女には、トルコにいた時からの夢がある。
「看護師になりたいです」
看護師になって、重い病気の人たちの力になりたいという。
イスラム教国のトルコでは、女性が好きな職業に就くのは困難で、しかも彼女はクルド人だ。教育すら十分に受けることができない。だが日本では、男女平等に教育を受けることができ、好きな仕事にも自由に就くことができる。彼女は言う。
「日本は教育をしっかり受けることができるのが一番いいです」
だが、彼女の前にも「壁」が立ちはだかる。高校卒業後は専門学校を目指すが、まずお金がかかる。専門学校を卒業できても、在留資格がないままでは就職できないかもしれない。彼女の家族も難民申請をしているが、結果はまだ出ないという。今のままでは彼女の夢がかなうのは難しい。見えない未来。それでも、彼女は、こう言った。
「私の中では、(看護師に)なれると思っています」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2021年10月11日号より抜粋