<昔からああではなかった 鬼殺隊で柱にまでなった父だ 情熱のある人だったのに ある日突然剣士をやめた 突然 あんなにも熱心に 俺たちを育ててくれていた人がなぜ>(煉獄杏寿郎/7巻・第55話「無限夢列車」)
■「炎の呼吸」の指導を放棄された杏寿郎
元炎柱から剣術の指導を得られなくなったことは、杏寿郎にとって苦難の始まりであった。杏寿郎がどんなに懸命に技を磨いても、自分の努力で「炎柱」までのぼりつめても、父は「くだらん…」と言い捨て、振り返ってはくれなかった。己の顔さえ見つめてくれない父の背中を追って、杏寿郎はひたすら剣術を磨いた。
無限列車編では、杏寿郎の過去回想シーンで父親が登場するが、この頃には明るく息子たちにほほ笑みかける「かつての父」の姿はもうなく、息子たちにひたすら背をむけ、暴言を吐く姿しか見せていない。
のちに父・槇寿郎は、この頃の自分を後悔するようになる。そして、息子の技は、杏寿郎が「自分ひとりで」身につけたのだと述べている。
<杏寿郎は私などとは違い 素晴らしい息子だった 私が教えることを放棄した後でも 炎の呼吸の“指南書”を読み込んで 鍛錬し柱となった たった3巻しかない本で>(煉獄槇寿郎/10巻・第81話「重なる記憶」)
■かつての父の姿を追って
しかし、杏寿郎の父は思い違いをしている。このアニメ2期・第1話で杏寿郎が発した「不知火」の技を見てほしい。かつて、槇寿郎に守られた人物(弁当屋の老女)が、今度はその息子・杏寿郎の技を見て、槇寿郎の過去の姿を思い出している。
父と息子。寸分違わぬ「不知火」の鮮やかな炎、赫い日輪刀を鞘に収める美しい所作、ひと呼吸ついた後に、あの炎の形の艶やかな鍔(つば)から柄頭まで指先をそわせる、その仕草。杏寿郎の動きのすべてが、父・槇寿郎のそれと重なるではないか。
「忘れもしません そのお顔 羽織 私とフクの母親は 20年前あなたに助けていただきました」(弁当屋の老女、少女フクの祖母/アニメ2期・第1話「炎柱 煉獄杏寿郎」)