それから2年が経った今、改めてこのクラスのことをたつひろ先生に聞いてみました。コウがリレーで全距離を走ることになった時、優勝すると思いましたか?
■負ける気はしなかった
「思ってました(笑)。子どもたちが疑いなく優勝を狙っていたからです。負ける気がしませんでした。走り終わった後にコウにアイコンタクトを送ったら、グーって返って来ました。最後までやりきったからこその結果ですね。
『愛と絆を深め、最後の1年を楽しもう!』が、子どもたちが決めた学級目標でした。担任としてどのように声をかけたら響くのだろう? どうすれば相手を思いやり、傷付いた相手に気付けるのか。個が輝くためには、互いに認め合わなければクラスとして機能しません。思春期真っ只中の子どもたちで本当に悩みました。でも、そんなことを心配する必要はなく、少しずつ何かが動き出していく感覚がありました。
卒業式で、【この学校の校章は『松』です(松は古くから、どんなに痩せた土地でも芽を出し生長するという生命力の強さを表しているそうです)。校章の意味に込められた『松』のように、何事も恐れず、前に向かって勇敢に進んでいきます!】と言った子どもたちに、僕の方が勇気や元気をもらいました。コロナ禍での学校生活はとても難しいものになり、何が正しいのかを判断して力強く生きていかなくてはならない時代になりました。その中で、このクラスの子どもたちが小学校で学んだことは、大きな意味があるのではないかと思うのです。可能性に満ちた大空に、大きな羽で羽ばたいてくれていると思います」
■気持ちさえあれば
卒業式の日。最後の学級通信には、『どうしようもないぐらい進めなかったら、いつでも戻っておいで。先生の力をあげるよ!』と書いてありました。
常に息子の気持ちを尊重して、たくさんのことにチャレンジさせて下さった、熱い先生です。でもこれは決して特別ではなく、受け入れる先生の気持ちさえあれば、どの学校でもこうなるのではないでしょうか。
インクルージョンという言葉がもっともっと浸透し、前進していくことを願っています。
〇江利川ちひろ/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ
※AERAオンライン限定記事