大将は12年の第2次政権発足当初、「縮小均衡の分配政策」と決別して、「成長による富の創出」を実現すると言っていた。ところが、あまりにも過激な分配蔑視が世論の顰蹙(ひんしゅく)を買い始めた。そこで、分配にも配慮しているというアリバイづくりに乗り出した。岸田氏はこの路線を踏襲しているにすぎない。
しかも、岸田氏は「成長なくして分配なし」とも言い添えている。ここもアホノミクスの大将の16年施政方針演説を忠実になぞっている。なぜなら、それには「成長の果実無くして分配を続けることは出来ません」というくだりがある。岸田氏は自民党総裁の就任会見で「しかし分配なくして次の消費、需要も喚起されない」とも言った。要するに、分配は次の成長のための手段なのである。弱者救済のための分配政策ではない。どうみても、アホダノミクスだ。
このネーミングを、日頃からお世話になっている同志社ビジネススクールの卒業生に披露した。すると「それは『アホダノミ』にもかけての名称ですか?」と聞かれた。おお、なんと素晴らしい。筆者はそこまでは考えていなかった。だが、その通りだ。「困った時のアホ頼み」。それがアホダノミクス男の本質でありそうだ。
浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演
※AERA 2021年10月18日号