週に2回か3回は通うというピラティス。バレエをしていたから、しなやかで、どのポーズも決まる。トレーナーたちは「熱心で、とても楽しい方。いつも爆笑させてもらっています」(写真/篠塚ようこ)
週に2回か3回は通うというピラティス。バレエをしていたから、しなやかで、どのポーズも決まる。トレーナーたちは「熱心で、とても楽しい方。いつも爆笑させてもらっています」(写真/篠塚ようこ)

フォロワー数201万人
ファンでなく「居間の住人」

 もう鼻高々に違いないと思ったら、滝沢は全然そうでないという。2020年4月の出版当時、「絶対に5人しか買ってくれないと思っていた」のは、最初の緊急事態宣言で多くの書店が閉まったからではなく、「誰が自分の文章、文章というよりは物語、自分が考えた物語になんか入り込んでくれるんだろうって」思ったからだそうだ。

 が、結果は10日で3刷5万部という秒速大ヒット。高橋は森鴎外や夏目漱石を引き合いに、「カレンさんの場合は、物語を新しい場所に提供したんです」(NHKラジオ「高橋源一郎の飛ぶ教室」)と語った。そう伝えると、返ってきたのが、

「すごい方々にほめていただいて、もう本当に『カレンの台所』としては、肩幅が狭いと思います」

 ふいに『カレンの台所』の視点で語りだす。この自在さが、彼女の日本語を際立たせる。狭いのは肩身だろうといった指摘がどうでもよくなってくるのは、こんなふうに話が続くから。

「自分が今までお世話になってきた食材たちとご飯たちを入れているので、『カレンの台所』にはいつも胸を張っていてもらいたいです。じゃあ1回戻って、すごいと思ってるんですかと聞かれたら思ってませんというのが私の答えです」

 自分を確かに見る。その視線に影響を与えたのは祖母だ。滝沢のウクライナ人の父は、生まれた時にはいなかった。母の実家で、母と祖父母との暮らし。母は通訳やバレエ教室の経営で忙しく、ほとんどの時間を祖母と過ごした。「女は男を立てよ」という信念の、しつけに厳しい人だった。

 滝沢はそんな祖母を「憧れの人」という。祖母がそうしていたから飲み物はいつも常温で、祖母が好きだったから好きな俳優は高橋英樹だ。その祖母の教え、それは「いつも自分を底辺の人間だと思え」だったという。

コンプレックスはある。でも、絶対に自分からは言わない。言えば、そこが注目されてしまうから。言わないことが、ポリシー(写真/篠塚ようこ)
コンプレックスはある。でも、絶対に自分からは言わない。言えば、そこが注目されてしまうから。言わないことが、ポリシー(写真/篠塚ようこ)

 だから、自分は「ファンの皆さま」とは間違っても言えない。インスタグラムを「居間」と呼び、フォロワー(201万人!)を「居間の住人」と呼ぶのもそこにある。

「遊びにいらしてくださっている居間の住人さんって考えると、自分の頭がすべてうまくいきます。おばあちゃんの言葉は、本当にもう、この道に来ると知ってたかのようだったんです」

 この道、すなわち芸能界で滝沢は今、引っ張りだこだ。冒頭で紹介したインスタライブ前後に限って、出演したテレビ番組をざっと並べてみる。

 9月10日が「沸騰ワード10」(日本テレビ)、12日が「ウッチャン式」(TBS)と「行列のできる法律相談所」(日本テレビ)、13日が「クイズ!THE違和感」(TBS)と「関ジャニ∞クロニクルF」(フジテレビ)、17日が「全力!脱力タイムズ」(フジテレビ)。

 なぜかくも売れっ子に? 「沸騰ワード10」総合演出の水嶋陽(39)にそう聞くと、「素直さ、嘘のなさでしょうか」と返ってきた。

(文・矢部万紀子

※記事の続きはAERA 2021年10月18日号でご覧いただけます

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