まっすぐ見つめる。わからない時はわからないと言う。それが滝沢カレン(写真/篠塚ようこ)
まっすぐ見つめる。わからない時はわからないと言う。それが滝沢カレン(写真/篠塚ようこ)
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 モデル、滝沢カレン。取材していて、わかったこと。「うれしーい」「やさしーい」が滝沢カレンの口癖だ。そう思ってテレビを見たら、この前は、こんなふうに言っていた。「ただただ、うれしい」。誰かにおもねってのものではない。それが、彼女の強さ。そんな話を、うれしくやさしく伝えていきたい。AERA2021年10月18日号「現代の肖像」から。

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 9月18日、滝沢(たきざわ)カレン(29)が歌っていた。著書『カレンの台所』が「料理レシピ本大賞」を受賞、記念してのインスタライブでのことだ。

 11日に続く2回目のライブで、スタート時から視聴者は6千人超え。珍しくメガネをかけた滝沢が、「今日はしゅうまいにしましたー」と発表。まずはタマネギを刻み、合間に続々届くコメントを読む。その流れから、突然、歌になった。

「声も 顔も 不器用なとこも 全部 全部 大嫌いだよ ごめんねの言葉は 言わないけど」

「あ、ドライフラワー」「優里」と、コメントが曲と歌手名を教えてくれる。もう1曲歌い、「中華カサカサ入れました」と実況、Mrs.GREEN APPLEの「僕のこと」を歌ったあたりで、「全然、違う曲になってる」とのコメントが。

専属モデルをしているファッション誌「Oggi」の表紙撮影。撮影中は口数少なく、パソコン上の自分の写真も、黙ってじっと見つめていた(写真/篠塚ようこ)
専属モデルをしているファッション誌「Oggi」の表紙撮影。撮影中は口数少なく、パソコン上の自分の写真も、黙ってじっと見つめていた(写真/篠塚ようこ)

 そう、この日の滝沢は何曲も歌ったけれど、歌詞は割と間違っていた。正確に書くなら、ほぼ滝沢のオリジナルだった。だけど、違和感なし。むしろ「わかる、わかる」と言いたくなる感じ。だって滝沢は料理の達人で、日本語の達人。料理×日本語=『カレンの台所』大賞受賞。ライブ×オリジナル歌詞=ハートマーク。画面に飛び交った。

 達人ぶりを実感していただくため、『カレンの台所』から麻婆豆腐の作り方を紹介する。

<まずは油を引いたフライパンににんにくと生姜をレディファーストしてあげ、なんだか匂ってきたらひき肉塊を入れ、まな板で千切りするかのように、ガツガツとヘラで刺激してあげてください。ある程度の男子学校になるなという分までバラけさせたら、また刻むだけ刻んだネギを入れ共学にさせます。男子という名のひき肉は喜びに変わりどんどん男らしくなっていきます>

 この本を「作者に心を合わせたくなる」と評した糸井重里(「ほぼ日刊イトイ新聞」)、「滝沢カレンは谷崎潤一郎だった!」と評した高橋源一郎(「サンデー毎日」)、2人ともが紹介していたのが、この文章だった。

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出版当時「絶対に5人しか買ってくれないと思っていた」