戦艦大和の10分の1の模型(大和ミュージアム提供)
戦艦大和の10分の1の模型(大和ミュージアム提供)
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 JR呉線は瀬戸内海沿いを走るローカル線で、車窓からは穏やかな海が太陽の光でキラキラ光り、広島名産の牡蠣の養殖棚が浮かんでいるのが見える。その拠点となる呉駅では、列車が近づくのを知らせる「宇宙戦艦ヤマト」の勇壮なメロディーが流れている。聞くと、ああそうか、ここは戦艦大和が建造された街、海軍の街だったと改めて気づくのだ。

【ヤマト新艦長となる古代進はこちら】

 かつては海軍の本拠地:呉鎮守府があり、今は海上自衛隊とその教育施設を擁する。セーラー襟の制服を着た、かつての「水兵さん」のような若い隊員たちと出くわすことも多い。駅から徒歩5分ほどの海沿いには、戦艦大和の歴史を伝える「大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)」があり、コロナ禍前には全国から年間90万人もの来館者があった。太平洋戦争中の市民の暮らしを描き、マンガや劇場用アニメが大ヒットした「この世界の片隅に」の舞台でもあり、街中のそこかしこに残る当時の名残には、海軍工廠があった時代にタイムスリップする感覚さえある。この街に、「ヤマト」のメロディーはすんなり溶け込んでいる。

■市民提案の接近メロディー

  

 このメロディーは市民提案がきっかけで実現した。2012年、呉市が主宰した「みんなの夢・アイデアコンテスト」で「呉駅のメロディーを『宇宙戦艦ヤマト』に」との提案が金賞を受賞。JR西日本の系列会社が音源を制作し、13年7月から列車が接近する際に流れている。三原方面へ向かう「上り」線では歌い始め、広島方面の「下り」線では前奏部分と、それぞれ違うメロディーが流れている。「呉駅を利用されるお客様からも好評で、窓口でお褒めの声を頂くほか、『宇宙戦艦ヤマト』ファンや鉄道ファンの方々が、ホームで写真を撮っている姿を見かけることもあります」(JR西日本広島支社)。大和ミュージアムの戸高一成館長は「聞いた途端に口ずさめるメロディーで、ミュージアムとあわせて呉市の印象を形作っている」と話す。ミュージアムのシンボルは、実物大10分の1の戦艦大和だ。

「宇宙戦艦ヤマト」はプロデューサーの西崎義展氏が企画し、漫画家の松本零士氏も参加する形で、1974年秋にテレビアニメとして放送された。舞台は近未来2199年。地球は異星人からの攻撃で放射能汚染が進み、人類滅亡まであと1年に迫っていた。そこに16万8000光年離れたイスカンダル星からの宇宙船が不時着する。放射能除去装置を取りに来るように、とのメッセージと、時空を超えた「ワープ」を可能にする波動エンジンの設計図が収められていた。これを受け、太平洋戦争中に沈んだ戦艦大和を模した「宇宙戦艦ヤマト」を建造し、除去装置を受け取りにイスカンダルまで宇宙航海に出る沖田十三艦長以下、古代進、森雪ら乗組員の物語である。

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