「ルールを変えるには、多くの手順が必要なことを知りました。全校の意見をアンケートなどを通じて聞き、いい方向に持っていきたいです」

“校則の見直し”に、カタリバのような第三者が加わるメリットは何か。プロジェクトの導入を学校に提案した、生徒会担当教諭の星野真宏さん(38)は次のように語る。

「『教師対生徒』の対立構造や上下関係でなく、第三者が加わることでフラットな関係で対話できることが大きいです」

■校則に法的根拠なし

 だが、導入前には不安もあったと星野さんは打ち明ける。

「コロナで忙しさが増すなか、自分の時間が回るのか。加えて、生徒が利己的にならないか。教師の中には、何十年と在籍し伝統を守ってきた人たちもいる。教職員間の分断を生まないかなど、不安と葛藤がありました」

 カタリバでは、8月に教員を対象にしたワークショップも実施した。校則の見直しを進めるうえで、生徒だけでなく教師や学校の地ならしが不可欠だからだ。星野さんは言う。

「校則に関心を持つ先生が思っていた以上に多く、充実しました。校則の見直しは、生徒だけでなく、教師も変え、学校全体の文化を変える可能性も秘めていると思います」

 福岡県弁護士会も学校外のサードパーティーとして、是正に積極的に取り組んできた。福岡市の中学の校則を調査し、意見書を提出、シンポジウムも開催してきた。同会の弁護士・後藤富和さん(53)は言う。

「そもそも校則に法的根拠はありません」

 文科省の生徒指導提要にも「校則について定める法令の規定は特にない」と書かれており、「校則を制定する権限は、学校運営の責任者である校長にある」とする。後藤さんは言う。

弁護士 後藤富和さん(ごとう・とみかず)/1968年生まれ。2009年、福岡市に大橋法律事務所開設。子どもの中学のPTA会長も務め、制服をジェンダーレスにした(写真:本人提供)
弁護士 後藤富和さん(ごとう・とみかず)/1968年生まれ。2009年、福岡市に大橋法律事務所開設。子どもの中学のPTA会長も務め、制服をジェンダーレスにした(写真:本人提供)

「問題は、法的根拠のない校則が、憲法が定める『基本的人権』を侵害している点にあります。私たち弁護士が、校則に関わる理由はそこにあります」

 弁護士会の調査では、下着の色指定や地毛証明の提出、眉毛に手を加えることの禁止といったものまでもあった。

「眉がつながっている生徒が剃って整えたら、教師がマジックで描いたというケースもありました。同じようなことを会社でしたら、どうでしょうか。女子生徒の下着の色検査も普通はセクハラで訴えられますよね。学校だけが治外法権でいいわけはありません」(後藤さん)

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