■ポニーテールで失明
後藤さんは、校則の厳しさが原因で学校に行きづらくなっている女子中学生の相談を受けた。学校では、ポニーテールも禁止されていて、その理由を後藤さんが確かめると「体育のときに、後ろにいる人が失明するから」という答えが返ってきた。
「深刻なのは、教師は冗談ではなく、本気でその校則が生徒を守ることにつながると思っていることです。私たちが、規制が人権侵害に当たるかどうかを判断するとき、その目的と手段の相当性の二つの側面から考えます。規制の目的は教育だとして、ポニーテール禁止は関連性があるでしょうか。また、ポニーテールが原因で年間何人の人が失明しているのでしょう。合理的な説明が必要です」(同)
学校の決まり等が原因の不登校児童・生徒は、全国で5千人を超える。だが、理不尽な校則を手放したがらない教師が少なくないと、後藤さんは言う。校則に詳しい、名古屋大学大学院准教授の内田良さんはその理由を次のように説明する。
「『校則を変えて、学校が荒れたらどうしよう』という不安が強く、学校は『外の目』を気にしています。生徒が学校外で問題を起こしたとき、すぐに連絡がいくのは学校です。地域で夏祭りがあれば教師がパトロールをする。本来、家庭や地域で担うべき、子どもの管理を学校に丸抱えさせる『学校依存社会』が学校を縛り、教師が校則に向き合う時間の余裕を失わせています。保護者も社会も変わらなければいけません」

■健全な土壌での対話
若者の声を政策に反映させる「日本若者協議会」は、昨年、現役高校生などによる「学校内民主主義を考える検討会議」を立ち上げ、校則の改正プロセスの明文化や、学校運営への生徒参加などを国に提言した。生徒指導提要の改訂に合わせ、「校則見直しガイドライン」をあらためて提出する予定だ。
前出の内田さんは、生徒が校則の見直しに主体的に取り組む現在の流れやその意義を評価する一方、見落としてはいけないポイントがあると話す。
「校則見直しで報じられるのは成功事例ばかりです。その裏で、生徒が時間をかけて討議した提案を学校が全く取り合わなかったり、一方的に説得し、生徒に忖度させたりといったケースも多く耳に入ります」
校則を変更できたケースでも、例えば黒タイツの着用許可や、学校から帰宅後「4時まで外出禁止」を解除するなど、一般的には当然のこと。生徒たちはそのために半年以上の時間をかけている。そこまでのコストをかけないといけないものなのか、と内田さんは問題提起する。
「延々とこのような小さなマイナーチェンジを重ねていくことは果たして妥当でしょうか。まずは先生たちが校則とは何かを考え、子どもの人権の観点から捉え直す必要があります。そしてブラック校則をいったん一掃し、健全な土壌のうえで生徒と対話しながら校則を作っていくことが大事です」
(編集部・石田かおる)
※AERA 2021年10月18日号