2019年5月、サンフランシスコ市がアメリカで初めて、顔認証技術の使用禁止条例案を可決した。また2020年5月には、黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警官の暴行により死亡する事件が起き、人種差別の反対運動が広がった。これを受け、IBMやマイクロソフト、アマゾンなどのIT企業が相次いで監視目的の顔認証ソフトの開発や販売を中止し、各州都市で利用を禁止する事態に発展していった。

 EUでも、2021年4月に公共空間で顔認証技術を使った警察捜査を原則禁止とするAI関連の規制案を公表するなど、欧米社会では利用を制限する流れにある。

 では日本は――。この問題に一石を投じたのが、JR東日本による顔認証カメラの導入だ。同社は7月から、駅構内の安全対策として、顔認証技術を用いて指名手配中の容疑者や不審者とともに、出所者と仮出所者の一部を検知する仕組みを導入していたと、読売新聞が報じた(9月21日)。対象者の顔情報をデータベースに登録し、照合する仕組みだという。

 JR東日本は、駅構内にステッカーを貼るなどして顔認証機能付きカメラの設置をアナウンスしていた。だが、出所者と仮出所者を検知対象に含んでいたことは、報道されるまで公表していなかった。

 同社はAERA dot.の取材に対し、「様々なご意見を踏まえ、出所者・仮出所者は登録しない」と回答。現時点で、登録した事例もないという。一方、不審者などの「顔の情報の照合」については続けるという。

「国内外の犯罪・テロの脅威が高まっていることも踏まえて、テロ行為等を未然に防止し、お客さまの安全・安心を向上・確保するため、鉄道のセキュリティ向上を継続したいと考えております」(JR東日本広報部)

 警察庁OBである中央大学の四方光教授(刑事政策論)は、こう指摘する。

「鉄道会社には、乗客の生命を守る使命があります。8月に小田急線で起きた刺傷事件など刃物を持った犯人の追跡捜査や、テロ対策、冤罪防止には有効かと思います。ただ、『出所者=危険な人』という感覚でカメラを運用することは、『危険な人』というイメージが固定される恐れがあります。出所後に立ち直ろうと努力している人は多いのですが、そうしたイメージゆえに就職が困難になるなど、さまざまな場面で肩身の狭い思いを余儀なくされます。安全対策上の必要性と、プライバシーを侵されるかもしれないという不利益とのバランスを検討することが必要です」

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被害者等通知制度は防犯目的のものではない