すずき・おさむ/1972年生まれ、放送作家。数多の人気番組の企画、構成、演出を手がけるほか、近年はドラマ「M 愛すべき人がいて」の脚本、舞台「もしも命が描けたら」の作・演出なども務めている(撮影/写真部・高橋奈緒)
すずき・おさむ/1972年生まれ、放送作家。数多の人気番組の企画、構成、演出を手がけるほか、近年はドラマ「M 愛すべき人がいて」の脚本、舞台「もしも命が描けたら」の作・演出なども務めている(撮影/写真部・高橋奈緒)
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 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【写真】鈴木おさむさんの著書『僕の種がない』はこちら

 鈴木おさむさんによる初めての小説『僕の種がない』が刊行された。「男性不妊」という難しいテーマを扱いながらも、「面白いことは尊い」という視線が作品全体を貫いている。

そこには、ビートたけしさんや明石家さんまさんといった、人生で起こったことを笑いに変えてきた、日本の大物芸人たちに対する尊敬の念が刻まれている。筆者である鈴木さんに、同著について話を聞いた。

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 ストレートで潔くて、目を背けようとも脳裏に焼きついて離れないタイトル。恐る恐る読み始めると、そこに宿る熱量に圧倒される。『僕の種がない』は、鈴木おさむさん(49)が「男性不妊」という、現代的なテーマに真正面から切り込んだ小説だ。

 ドキュメンタリーディレクターの真宮勝吾は、がんで余命半年の芸人、一太に「子どもを作り、その姿をドキュメンタリーとして残さないか」と提案する。一太は無精子症で、妻との間に子どもはいなかった。勝吾と一太は深い信頼関係で結ばれながら、無謀とも言える挑戦に乗り出す。

 鈴木さん自身、妻である大島美幸さんと妊活を始める際、精子検査を行った。そこで目にした光景が忘れられない。雪が降る日にもかかわらず、病院の前には朝から100人以上もの人が列をなしていた。

「好奇心が強いこともあり、僕はどこかウキウキしていたところがあったのですが、なかには暗い顔をしている人もいました。実際に検査をしてみると『精子の運動率が悪い』と言われて。そこで初めて、『自分のせいなのか?』と」

 周囲の仕事仲間たちに話すと、「実はうちも」という言葉が何度となく返ってきた。

「男性の多くはオープンに口にすることができないんだ、と気づきました。男性不妊に対する認知度の低さから『妊娠できないのは女性のせい』と思われてしまう傾向もある。自分なりの形で世に知らしめることはできないか、と」

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