以前、シアトルの飲食店経営者複数名にインタビューをしたことがありました。お店のジャンルは違えど、皆さん一様に口にしていたのが「シアトルではファミリー層を締め出すと経営が成り立たない」という言葉でした。シアトル周辺の大きな産業はなんといってもITであり、アマゾンやマイクロソフトなどに勤める30代前後の若手会社員たちがいちばんお金を持ち、使っている。彼らはイコール子育て現役世代でもあり、いいお店があったらママ友パパ友を誘うなり、ソーシャルメディアで発信するなりして新たなお客さんを呼んでくれる。シアトルの人はメディアや飲食店発信の情報に常にアンテナを張って流行を追いかけるタイプではないこともあり、飲食店繁盛のカギはとにかく口コミ。横のつながりの強いファミリー層の胃袋をつかめば経営は順調になるとのことでした。ですからお店はハイチェアやおむつ交換台を完備し、時には子どもが遊べるスペースなども設けて、ファミリー層を呼び込もうと苦心しているのです。

 悲しいかな、この事情は日本にはあてはまりません。日本では、年齢が上がるほど平均年収も手取り額も貯蓄額も上がる傾向にあります。お金をもっているのは仕事や育児から解放されたリタイヤ世代で、子育て現役世代は毎日の生活をこなすだけで精一杯。将来しっかり年金がもらえる保障もないから、貯金もしておかないといけない。いいレストランになんて行かないし、お店でもあまりお金を使おうとしないので、飲食店側も無理にファミリー層を呼ぼうとしない……という悪循環になっているのではないでしょうか。

 子育て中の家事は、どうしても家族以外の人の手が必要になります。買い物は宅配業者さんに、掃除はハウスクリーニング業者さんに、などと誰かに頼る必要が出てきます。そんな日々の家事の中で、もっともアウトソーシングしやすいのが「食」ではないかと思うのです。家で調理・片付けをするのはひと苦労、それにたまには誰か人の作ったごはんが食べたい。そんなとき、家族で頼れる場所が増えたら子育てはもっとラクになります。子育て現役世代としては、しっかり外食産業にお金を落としてこちらのほうを向いてもらわないと、と思います。そうはいっても日々の出費が厳しいのですが。

〇大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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