写真家・藤里一郎さんの作品展「Intangible」が10月25日から東京・外苑前のNine Galleryで開催される。藤里さんに聞いた。
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東京・西永福にある藤里さんの事務所を訪ね、奥の部屋に通されると、今回写した女優の夏目響さんがソファにちょこんと座っていた。
小さなテーブルの上には作品と同じ、正方形の写真展案内が置かれ、そこには古い家屋を背にした夏目さんが写っている。写真の隅に2人の名前が並んで印刷されているのが印象的だ。
「この写真展は藤里一郎と夏目響の2人の作品にしたい、という思いがすごくあるんです。そういう気持ちで写したので、対等な表記にしました」と、藤里さんは説明する。
女性のポートレート写真で知られる藤里さんは今年、写真家デビュー25周年を迎える。今回の写真展はそれを記念して企画したもので、タイトルの「Intangible」は「無形」を意味するという。
「形がない。なので、写らない。それを写したい」と、熱を込めて語る。
「『気配』『におい』『温度』。温度というのは、気温というより、体温にちかいもの。そんな写らないものを写すことを写真家として、一生の課題に掲げてきた。25周年ということで、何らかのかたち、作品として、ひとつ答えが出せたら面白いな、と思った」
今回の作品は、女性のポートレート、というより、心象風景にちかいという。
「どこか懐かしさを感じる景色のなかに、ぼくが憧れてやまない、夏目響さんに立ってもらう。ぼくの心象風景って、やっぱり『昭和』なんです。昭和の風景にノスタルジーを感じる。それは世代的に、しょうがないんじゃないかな(笑)」
■「ああ、俺、狂っているな」
撮影したのは6月下旬。2泊3日で岐阜の山あいに点在する集落を巡った。
「あまり、人の気配がしない、というか、夏目さん以外の気配がしない。そういうところを探した。ぼくの気持ちが持っていかれるところ、というか」
気に入った場所を見つけると、車を止め、「このへん、ちょっと歩いてみようか、みたいな感じで写した。その連続というか、積み重ね」。