「フレンチの貴公子」として知られるシェフの須賀洋介さんは、コロナ禍にあっても、常に新しい道を開拓している。己を貫く信念は、長年師事したジョエル・ロブションから学んだものだ。いまも挑戦は続く。AERA 2021年10月25日号から。
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――「京都 舞鶴 あおりいか」「千葉 大原港 器械根あわび」「北海道 噴火湾 毛蟹」──。須賀洋介が采配をふるう「SUGALABO」のメニューは、料理名ではなく素材が並ぶ。
須賀:いい食材がなければおいしいものはできません。産地と生産者に敬意を払い、その日の仕入れを第一にして、そこから料理を組み立てる。そのことを大切にしています。日本は食材の宝庫だけでなく、料理人のレベルも高い。でも、自ら発信するよりも、海外から見つけてもらうのを待っているのが現状です。「Japan to the world」を合言葉に、食材、料理を世界に発信したいと考えています。
――ルイ・ヴィトンとの協働で、同メゾン世界初となるカフェと紹介制レストランを手がけたことも「日本発」の挑戦だった。
須賀:大阪のオープンは、コロナ禍が本格化した2020年2月で、まさしく「失われた1年半」に突入したタイミングでした。世の中のスピード感が薄れてしまったからこそ、僕自身は勢いをゆるめず、予定通りにプロジェクトを進めていこうと決めていました。週日は東京、週末は大阪というリズムで動いて、今年3月には東京・銀座のヴィトンにカフェを出店しました。4月にはメゾン初のチョコレートラインも打ち出しました。ルイ・ヴィトン本社も注視する中、日本発をどれだけ極められるかが勝負です。
■新しいシェフ像に刺激
――チョコレートは稀少な材料を吟味して作り上げる。
須賀:甘さは抑え気味に、ピュアな味わいを最大限に引き出しました。やるからには最高峰を作る。それは料理の世界に入ってから、ずっと変わらない自分の芯です。
――背景には、21歳で出会い、17年にわたって仕えたフランス料理界の巨人、ジョエル・ロブションの存在がある。
須賀:ロブションと出会った時、彼は50歳を過ぎ、自身の三ツ星レストランをいったん閉め、食のコンサルタントに転身した節目でした。テレビで料理番組を持ち、カルフールやエールフランスでの食の監修や、グルメホテルのプロデュースなど、料理をクリエイティブなビジネスに発展させようと最前線を走っていた。僕はテレビ番組収録の時に下ごしらえを担当したり、レトルト食品の開発に携わったりしていました。厨房にこもるだけではない、新しいスターシェフ像を開拓するロブションの姿は、野心的で、刺激的でした。