……これ、私に向けて言ってます? 確かに全くわかってないですデジタルとか。しかしこのコピー、いくらなんでもどうなんだ。そもそも、ワクチン予約もできなかったりしてデジタル社会に不安いっぱいの高齢者に、「大丈夫、考えなくていいですからとりあえずやっちまいましょう」って。言うてなんだが、不安につけ込んで考えるスキを奪うのは詐欺の常套(じょうとう)手段である。
一体なぜ、お国はそれほどまでにしてカードを作らせたいのだろう? この勧誘にはお手紙作戦もかねて行われており、だいぶ前だが我が家にも手紙が届いた。興味を持ち真面目に読んだんだが、結局のところ、カードを作るこちら側のメリットは「ポイントがつく」ってことなのだなという結論に達した。言うまでもなく、これは税金を使ったエサであり、本質的なメリットでもなんでもない。もともとポイント嫌いなので、なおさら違和感があった。
私の浅い理解では、国がカードを作らせたいのは、お金も人手も減る中で行政の効率化を図りたいからなのだと思っている。ならばなぜそう言わないのかなと思う。賛成反対は別にしてそれは私も理解する。でもそうは言わない。別のことを言いエサを出す。そこが不気味なのである。
改めてネットで調べると、将来の「持たないデメリット」についての言及も多い。持っていないと災害の給付金が届きにくくなるとか。それを聞いて焦る自分もいる。追い立てられる家畜のようで悲しい。もっと普通に正面から対話してもらえないだろうか。
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2021年10月25日号