長引くコロナ禍で旅行を控える人が多いなか、密を避け、開放的な気分を味わおうと、手ごろな近場の山に出かけ、登山やハイキングを楽しむ人が増えている。ところが、準備不足やコロナ禍での運動不足などが原因で、遭難してしまう人も増加している。これから本格的な紅葉シーズンを迎え、入山者の数も増える。身近な山でいま、何が起こっているのか、取材した。
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「軽装で登られる方がけっこういるんですよ。われわれが救助活動をしている最中も、その横をスニーカーで、コンビニの袋だけを持って登る人もいる」
奈良県警察山岳救助隊で副隊長を務める間瀬田淳さんは、そう苦言を呈する。
東京に近い神奈川県・丹沢山系の大山では中高年者の遭難が初心者、経験者を問わず発生している。
標高1251mの大山を管轄する伊勢原警察署は「遭難者の準備不足や情報不足」を指摘したうえで、「軽装のハイキングの感覚で登って遭難してしまう人のほか、体力を過信して遭難する人もいる」と話す。
一方、若い世代の遭難者も少なくない。
「無計画で下山時間が日没をすぎ、装備品もなく視界不良となり、身動きがとれなくなった結果、救助要請をしてくることが多い」(伊勢原警察署)
近年の登山やキャンプなどのアウトドアブームにともない、遭難件数も増え続け、2019年には全国で2531件の遭難が発生した。30年前の約5倍である。
しかし、新型コロナで不要不急の外出自粛が求められた昨年は、2294件に減少。特に日本アルプスや八ヶ岳など、本格的な登山が楽しめる長野県では265件から183件と、約45%も遭難者が減少した。
ところが、東京や大阪など大都市近郊の山では、逆に遭難者が増えているのだ。
■神奈川、奈良で遭難が急増
遭難の増加が著しいのは丹沢山地がそびえる神奈川県で、遭難発生件数は104件から144件と、約38%も増えた。過去10年で最多、全国でも北海道、長野県に次ぐ多さである。
丹沢を訪れる登山客は例年、約30万人。なかでも、交通の便がよく、眺望のすぐれた前述の大山は塔ノ岳と並ぶ人気の山だ。