そのほとんどの作品に出演した盟友・相米慎二監督のことを、寺田さんは親しみを込めて「ソーマイ」と呼んだ。相米監督の対極にあるのが実相寺昭雄監督だったという。

「実相寺は、『そこはだめ、2ミリ前、瞬きしない、息を止めて』と、まるでレントゲンでも撮ってるような細かい指示を出す。でも、それは実相寺の世界だから。実相寺の映画の中では俺は『役者は動く小道具』ってよく言ってたんだけど、その指示によってどんな世界を見せてくれるかに興味があった。あれだけの作品を残しながら、当時、彼を嫌う女優さんはいっぱいいたよ。でも、そんなことでオファーを断るのはもったいない。テレビの演出家でも映画の監督でも、『芝居がわかっている』なんて人はいないんだから。ソーマイだってわかってなかったと思う。結局、『こうじゃねぇよな』『ああじゃねぇよな』とやりながら考えるのが正解なんです」

(菊地陽子、構成/長沢明)

寺田農(てらだ・みのり)/1942年生まれ。61年文学座附属演劇研究所に第1期生として入所。日本テレビ系の青春シリーズに出演し注目される。68年岡本喜八監督「肉弾」に主演、毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。85年相米慎二監督「ラブホテル」でヨコハマ映画祭主演男優賞を受賞。スタジオジブリ作品「天空の城ラピュタ」のムスカ大佐役としても有名。2008~12年、東海大学文学部の特任教授を務めた。

>>【後編/寺田農、高倉健との共演で大失態 「酒とニンニクの臭い」漂わせ現場入り】へ続く
週刊朝日  2021年11月5日号より抜粋

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