前出の中澤氏はこう説明する。
「賃金が上がれば、人はそれだけ、より価格の高いものを買うようになる。ものが売れれば市場が回り、経済の好循環を生み出し雇用につながるのです」
ただ日本の場合、最低賃金の引き上げが雇用につながりにくいとされる。
「最低賃金を引き上げる一番の問題は、ガツンと一気に上げることです。特に体力の弱い中小企業の重荷となり、逆に雇用を減らすことに結びついてしまいます」(経済評論家の森永卓郎氏)
森永氏はコロナ禍の今、最低賃金が平均28円アップしただけで、多くの中小企業経営者は悲鳴を上げているという。米国は非正規雇用でも最低賃金に近い人ばかりではなく、それが日本と違う点だと指摘する。
「日本は最低賃金を緩やかに上げていくしかありません。しかし、それだと格差はいつまでも縮小しません。そこで、最低賃金は毎年2%程度上げながら、同時に消費税を下げ、ベーシックインカムを給付する。こうして、25年近くかけて最低賃金を1500円にするのが、最も効果的なやり方だと思います」(同)
中澤氏は、1500円への大幅引き上げは、中小企業への支援策とセットでないと実現できないと語る。
「最低賃金を上げて設備投資をした企業には、業務改善助成金という制度が設けられています。しかし、使い勝手が悪くあまり利用されていません。これまでは政府主導で最低賃金を引き上げてきましたが、中小企業に対する支援はほとんど行ってこなかったというのが私の評価です。そこで、4~5年のスパンで、中小企業への支援策をセットにして、最低賃金を年12%程度引き上げれば、雇用への影響を抑えることは可能だと考えます」
どこでも誰でも、人間らしい生活を送る──。そのための公平な賃金のあり方が問われている。(編集部・野村昌二)
※AERA 2021年11月1日号より抜粋
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