前出の田中教授は言う。

「通常、医療機関で人工授精する場合は、精子を半年間凍結し、その後に感染症の有無について調べます。一般の方は、そこまでできません。また、1人の男性が何十人も子供を持つと、同じ父親を持つ子供同士が恋愛関係になるリスクも高まる。異母きょうだいの結婚と出産は、子供の遺伝性疾患の原因になります」

 前出の西園寺さんは、ホームページ上に感染症検査の結果や学歴を証明する書類を掲載している。だが、精子ドナーでここまで情報開示をしている男性はまれだ。実際は、性交渉目的や「自分の優秀な遺伝子を多く残したい」という優生思想を持つ人など、いかがわしいケースも多い。

 そんな中、精子提供では世界的に実績のある民間会社が、19年に日本に事業窓口を開設した。世界最大の精子バンク「クリオス・インターナショナル」(本社はデンマークとアメリカ)の日本事業担当ディレクターを務める伊藤ひろみさんは、こう話す。

「開設してから問い合わせが相次ぎ、こんなに反応があるのかと驚きました。相談開始から1年半で、150人の方に精子を提供しました」

 クリオスでは、精子の質の管理を徹底している。ドナー希望者に対し、感染症や重篤な遺伝性疾患の有無を検査し、妊娠しやすい精子を厳選する。現在、登録されているドナーの数は1千人を超える。ただ、ドナーになることを希望した応募者のうち、厳しい審査を通過して採用されるのは5~10%しかいない。

 女性が精子の提供を受ける際の費用は、1回につき平均9万円程度(送料別)だ。

 レズビアンカップルの鈴木愛さんと鈴木洋子さん(いずれも仮名、30代)は、クリオスから精子の提供を受けた。愛さんは20年1月に出産、洋子さんも同じ男性の精子で21年3月に出産した。2人とも子供は女の子で、異母姉妹ということになる。愛さんは言う。

}「最初は知人の男性から精子を提供してもらおうと思ったのですが、後でトラブルに発展するケースがあると知って、あきらめていました。その時に、海外では精子バンクというものがあることを知って、精子の提供を受けることを決めました」

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