衆議院選挙の投開票が終わった。今回の選挙では、芸能人がSNSなどで「選挙に行こう」と投票を呼び掛けたことが話題になった。また、選挙特番では、芸能人が投票した政党を明かし、ネットで賛否両論が渦巻いた。芸能人の政治的な発言については、これまでいくつか物議を醸したできごとがある。もっとも有名なケースを紹介しよう。
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約半世紀前、政治にからんだ行動から、人気司会者が担当していた番組をすべて降ろされてしまうことがあった。1960年代から70年代にかけ、数多くの高視聴率番組で名司会者の名をほしいままにした前田武彦さん。通称マエタケさんが、生放送中、共産党候補者の当選を受けて「バンザイ」と叫んだ、いわゆる共産党「バンザイ」事件である。古い話なので、この経緯を知る者は、テレビ局関係者そして政治家でも少なくなっている。前田さんの自著や当時の報道を参考にしながら、真相を振り返ってみよう。
1973年6月17日、生放送の音楽番組「夜のヒットスタジオ」(フジテレビ)の司会者だった前田さんは、番組終了直前に「バンザイ」をした。
これは前もって共産党立候補者が当選したとき、前田さんが番組のなかで行う符号のようなものだった。共産党関係者、同党支持者はニヤリとしたことだろう。
なぜ、前田さんはこのようなことをしたのだろうか。共産党と約束したからである。
前田さんがテレビで「バンザイ」をした数日前のことである。
彼は参議院議員補欠選挙に出馬していた共産党の立候補者の応援演説をしていた。そのなかでこうスピーチしたのである。
「私はこのあと東京に戻ります。月曜の夜はテレビの生放送です。それまでに選挙の結果がわかるでしょう。(略)首尾よく当選されたら、その生放送でバンザイします。皆さん見ててください」(『マエタケのテレビ半生記』2003年 いそっぷ社)。
あまりにもサービス精神旺盛すぎたが、ねらい通り、大きな歓声があがり、場はおおいに盛り上がった。
前田さんが共産党と親しくなったのは、1969年のことである。日本共産党の宮本顕治書記長(当時)との対談がきっかけとなった。ある新聞に掲載するための企画である。