だが、先の税制大綱には、この両制度の<あり方を見直す>と記され、<資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築>を目指す、とある。早い時期から暦年贈与などの相続税対策を行うほど節税できる現行制度は、「資産移転の時期の選択に中立的」とは言い難い。そのため、「生前贈与をできなくするための法改正が進む」と不安を募らせる人が増えたわけだ。
実際に生前贈与はできなくなるのか? 大綱をまとめた公明党税制調査会長の西田実仁参院議員は「誤解だ」と否定する。
「現行制度では、富裕層ほど早くから孫子への資産移転を進めることで、税負担を抑えることができる。そのための『暦年贈与信託』という、節税商品も販売されている。この商品を購入すれば、贈与契約書を作成する手間をかけずに、暦年贈与ができる。一部の富裕層だけが選択できる節税対策に歯止めをかけ、税の中立性を維持するための見直しを目指している」
大綱に、受贈者1人あたり最大1500万円まで非課税となる教育資金の一括贈与に関する特別措置、および最大1千万円までを非課税とする結婚・子育て資金の一括贈与に関する特別措置について<非課税措置の見直し>が記されているのは、そのためだ。教育資金として1500万円ずつ4人の孫に贈与すれば6千万円が非課税となるように、これらの特別措置は以前から「富裕層への優遇策」と批判を呼んでいた。21年度改正ではいずれも適用期限が23年3月末まで延長されたが、さらなる延長は見送られると見ていいだろう。
◆資産移転を促し経済の活性化に
このように富裕層に有利な非課税枠は撤廃、縮小される方針だが、生前贈与そのものができなくなるわけではないという。
「われわれとしては、高齢者から若年層への資産移転を促して、経済の活性化につなげたいという狙いもある。いつ、誰が贈与しても一定の税率がかかる公平性を担保しつつ、贈与が進みやすくなるようなかたちの改正を目指していく」(西田氏)