「暦年贈与ができなくなる」と駆け込み贈与を勧めるメディアが数多くあるが、実際には「暦年贈与の110万円の非課税枠をなくすという議論は出てきていない」(同)と話す。
ただし、中間層の間でも広く利用されている年間110万円の暦年贈与を利用すれば、受贈者と時期の分散化によって租税回避効果を高められるのも事実。これらを踏まえると、「今後の税制改革は暦年贈与制度を縮減して、精算課税制度に一本化していく方向で進む」(南青山資産税研究所の田川嘉朗所長)と見られている。
中間層にも使い勝手のいい暦年贈与は非課税枠の縮小ないし、相続税との合算期間(相続発生からさかのぼって3年以内の暦年贈与は相続額に合算される)を5年に延ばすようなかたちで残しつつも、精算課税制度の非課税枠を拡充することで生前贈与を進めやすくする、という見方のほうが有力だ。つまり、これまでの節税目的の生前贈与は難しくなると予想されるのだ。だが、この議論が本格化するのは来年以降。
「この秋の税調のテーマは、岸田総理も言及した金融所得課税。与党税調としては、20年から正式な検討課題として盛り込まれていた以上、11月から始まる税調のプロセスで詰めの議論を行うことになる」(西田氏)
贈与税と相続税の一体化は中期的なテーマだ。
「相続税法の本法を変える大きな改正となるため、1、2年でまとまる話ではない。精算課税制度の利用促進を目指すとなれば、10年以上もさかのぼっての資産移転の捕捉が必要になってくるだけに、マイナンバーと銀行・証券口座などのひもづけも不可欠。マイナンバー制度の浸透具合を見ながらの改正議論となるのでは」(田川氏)
とりあえず、慌てて駆け込み贈与に走る必要はなさそうだ。(ジャーナリスト・田茂井治)
※週刊朝日 2021年11月12日号より抜粋