真山:イギリスの小選挙区制をまねるなら、有権者の態度までしっかり理解した上で導入するべきでした。

 もう一つ我々世代が見過ごしてきたものに、平等教育があります。我々も競争よりは平等に重きを置いて育てられましたが、ゆとり世代ではそれが顕著になり、かけっこでみんなで手をつないでゴールするような極端な現象が起きました。「あいつ足速いな」と他人の優れた能力を認めない環境で子どもを育てると、才能をつぶしてしまう。それは社会にとって不幸なことです。

 NHKの「プロジェクトX」は人気番組でしたが、あれは、常識外れとも言える突出した天才を、多くの人がリーダーとして支えて挑戦した、成功物語です。つまり昔の日本には、天才を生み出すだけではなく、天才を認める力がありました。

河合:人生のルートが画一的になりましたよね。いい大学に行かなければそこで負けが決まってしまうような。教育の場が、子ども自身のポテンシャルを見つける場ではなく、勝ち組コースに自分をどう当てはめていくかを教える場になってしまいました。しかしこれだけ世の中の前提が変わっている中で、過去の成功パターンを踏襲することにどれほどの意味があるでしょうか。日本の失敗は、経済成長時代に作ったマニュアルに、世の中のほうを無理やりはめ込もうとしてきたことです。例えば外国人労働者の問題がそう。日本の働き手が減ります、じゃあどこかから連れてくればいい、と。でも、そんなに簡単にいくわけがない。少子高齢は世界共通の課題ですからね。弥縫(びぼう)策にしかなり得ない。

真山:立ち止まる勇気が必要です。そして、「失敗を語り続ける」のが大事です。コロナ禍が最後のチャンスかもしれません。うまくいかなかった事象をきちんと検証して、未来に備えることができるかどうか。済んだことは振り返りたくない、きれいごとは聞きたくないと耳をふさいでいる人たちにも届くように、私たちの責任を果たしましょう、と言い続けるつもりです。

(構成・長瀬千雅)

河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれ。産経新聞社論説委員を経て、一般社団法人人口減少対策総合研究所理事長。2017年『未来の年表』がベストセラーに。最新刊『世界100年カレンダー──少子高齢化する地球でこれから起きること』

真山仁(まやま・じん)/1962年、大阪府生まれ。中部読売新聞(のち読売新聞中部支社)記者などを経て、2004年に企業買収の舞台裏を描いた『ハゲタカ』で作家デビュー。著書多数。最新刊『タイムズ──「未来の分岐点」をどう生きるか』

※1 公益を追求するという使命や目的を達成するのに最も適した人材と資本を集め、事業を推進させるという考え方(渋沢栄一記念財団ホームページ)

※2 深く掘った掘り抜き井戸とは、汲み上げなくても自然に水が湧いてくる自噴泉であることから、とことん考えれば、知恵が溢れてくるという考え方

週刊朝日  2021年11月12日号

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