真山:私が『ハゲタカ』でデビューした頃は、経済がわからないと社会が見えない時代でした。ところが世界的にいろんな問題が起きてきて、政治の時代になっています。そこで登場したのがアメリカのトランプ大統領であり、ドイツのメルケル首相だった。
2016年の大統領選で民主党がトランプに負けた時に、アメリカの政治哲学の重鎮がある本を出したのですが、これが説得力があった。民主党は10年ぐらい前から綱領で「私たち」という言葉を使わなくなり、「あなた」「私」になったんだと。つまり少数派にばかり目を向けて、肝心のサイレントマジョリティーに届く発信をしてこなかった。似たような構図は日本にもあると思います。多様性というと日本人は必ずマイノリティーを探しますが、探しちゃダメなんです。たくさんの人の中にいろんな立場や考え方がある状態を「多様」と言うのであって、立場の弱い人を見つけて守るばかりが政治の役割ではない。ところがどうしてもそこに目がいってしまう。「みんなのための政治家だろう」となぜ誰も指摘しないのか。「私たち」という言葉を忘れてしまっている気がします。
河合:私は政治部記者だったのでどうしてもこういう答えになりますが、明らかに小選挙区制が元凶です。自分のお城を必死で守らないと議員でいられない。仕組みそのものが内向きになっている。今や中選挙区制時代を知る国会議員がほとんどいなくなり、「内向き政治」が新常態として定着してしまった感があります。
真山:イギリスは議会制民主主義で小選挙区制です。イギリスの有権者は、自分たちが選んだ議員が地元の活動にかまけていると怒るんですよ。「国のためにがんばれ、国会議員だろう」って。選挙で投票して終わりではなく、当選した議員が国をよくするための政治活動をしているかどうかチェックしている。ところが日本では、政治はお上(かみ)がやるものという考えが根強く、この人に投票したら未来の政治がどうなるかという想像力を持って選ぶ人は少ない。好青年だから投票してあげようという態度で臨みがちです。
河合:世襲議員が好まれるのも、それですね。