世界に目を向けると、小説でも映画でも、SF的想像力で未来に警鐘を鳴らす物語がどんどん作られているのに比べて、日本では少ないと感じます。エンタメは国の未来を映しています。現状を肯定するだけでは、想像力は湧き上がってこないんです。
河合:重要な視点ですね。というのも『未来の年表』(2017年)という本を書いた時、かなり売れたんです。少子高齢が進むと将来、火葬場が不足したり、地銀がなくなったりするなど、何が起きるかについて多くの人がピンときていなかったわけです。想像力の手助けをしたことが受け入れられたんだと思います。
こうした想像力の欠如は様々な場面で感じます。
例えば空飛ぶクルマが話題になっていますね。国民の半数近くが高齢者になる時代に向けて、空飛ぶクルマで何を解決しようとしているのかが、さっぱりわからない。これからの乗り物に求められるのは、乗り降りのしやすさです。足腰の弱った人がかなりの割合を占める時代になると、交通機関の景色は一変します。空飛ぶクルマに高齢者が一人で乗り降りするのは難しい。人口減少社会で戦略的に縮むための想像力がここでも不足しているんです。
真山:今の日本のように充足した社会では、新たなものづくりのイノベーションがなかなか起きません。手っ取り早いのは新しいルール作りで、明日からガラスのコップで水を飲んではいけません、陶器にしなさいという法律を作れば、陶器のコップが必ず売れます。地デジ移行がまさにそうでしたよね。ほとんどが液晶テレビに買い替えた。これも一種のイノベーションです。でも全然本質的じゃない。イノベーションが停滞している理由は、失敗を礼賛しなくなったからだと思います。
これだけのお金を投下した以上、国も応援しているから必ず成功させろ、というプレッシャーが強い。ビジネスでいえば、新規事業に注力せず、M&Aばかり進める。失敗しないことにこの30年を費やしてきたために、失敗を乗り越えて出てくるはずの天才が突出する可能性をつぶしてしまいました。