はら・たけし/1962年、東京都生まれ。放送大学教授、明治学院大学名誉教授。専攻は日本政治思想史。著書に『大正天皇』『滝山コミューン一九七四』『昭和天皇』『一日一考 日本の政治』など多数(撮影/写真部・高橋奈緒)
はら・たけし/1962年、東京都生まれ。放送大学教授、明治学院大学名誉教授。専攻は日本政治思想史。著書に『大正天皇』『滝山コミューン一九七四』『昭和天皇』『一日一考 日本の政治』など多数(撮影/写真部・高橋奈緒)
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 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

 原武史さんによる『歴史のダイヤグラム 鉄道に見る日本近現代史』は、朝日新聞土曜別刷り「be」で現在も連載中の好評コラムを「皇室」「郊外」「文学」「事件」など五つの章にまとめて書籍化したものだ。昭和天皇の極秘裏の伊勢参拝、大宮vs.浦和問題を語る田山花袋、リュックに猟銃を詰めた永田洋子が長岡から北海道へ渡ったルートとは? 著者の原さんに、同著にかける思いを聞いた。

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 二・二六事件の後、特別車両の中で歴史学者の平泉澄と密談する秩父宮、東京─大阪間を移動する際、わざわざ夜行の普通列車を利用した谷崎潤一郎、「峠の釜めし」か「だるま弁当」かで論争する鶴見俊輔と竹内好、長万部で内縁関係にあった坂口弘に「かにめし」を半分譲る連合赤軍幹部の永田洋子──。

 皇族や文学者から一般庶民まで、さまざまな人物と鉄道が交差したこのような歴史上の一場面を、原武史さん(59)は『歴史のダイヤグラム』で鮮やかに描き出す。通説からはこぼれおちるような断片的なエピソードを日記などの資料から丁寧にすくいあげ、それが博覧強記の鉄道知識と化学反応を起こすことで、いままでとはまったく違う歴史像が立ち上がってくる。

 原さんは日本政治思想史が専門だが、鉄道に関する著書も多く、「時刻表と歴史資料の読み方にはどこか通じるところがある」と言う。

「歴史資料の読み方にも当然読む人なりのバイアスがあって、例えば『昭和天皇実録』について何も新しいことは書かれていないと言った学者もいましたが、ちゃんと読むととんでもないくらい、いままで知られていなかったことが書かれています。時刻表もじっくり読んでいると、通常のルートとはまったく違う、場合によっては目的地により早く着ける別のルートが見つかることもある。小さな記述から通説が覆されるようなダイナミズムや面白さは、共通するものがあると思います」

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