リタイア後の夫の生活といえば、朝から晩まで寝転がってばかり。朝昼晩と決まった時間に食事を出さないと機嫌が悪い。ヨシエさんが友達と会ったり、習い事に出かけたりするときも、「誰の金で出かけるんだ?」と嫌悪感を示す。

「近所の○○さん、囲碁クラブに行くようになって楽しいそうですよ」「今度、ハイキングの催しがあるそうですよ」など、夫にも外に出るようそれとなく水を向けるも、「そんな集まり、どうせろくな奴がいない」など、ことごとく否定してばかり。四六時中、家にいる乱暴な夫と過ごす日常に、とてつもない息苦しさを覚えるようになったヨシエさんは、久しぶりに帰省した娘と二人になったつかの間の時間、つらい思いが口をついて出てきた。若いころから我慢し続けていた夫との暮らしが限界に来ていること、もっと自由に自分の時間を楽しみたいこと、そのために夫から距離を置きたいこと──。

 娘がヨシエさんを他県にある娘宅に呼び寄せ、離婚を見据えてカウンセラーの元に連れていったのは、その1カ月後のことだった。

 コロナ禍を経て、夫婦間のDV被害が増加している。警察が昨年受理した配偶者などパートナーからの暴力(DV)の相談は、18年連続で過去最多を更新。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛の影響などで潜在化している恐れも指摘されている。昨今では若い世代を中心に、妻から夫へのDV被害も増加傾向にあるものの、65歳以上のシニア世代においては「圧倒的に夫からのDVを相談する妻の割合が高い」(複数のカウンセラー談)という。

「今のシニア世代は、“亭主関白”という名の、ある種の支配関係に疑問を抱いてこなかった世代。上の年代になるほど我慢を美徳とする傾向もあり、我慢のつらさを他人に話しづらい人が多い」

 こう話すのは、これまで多くの夫婦トラブルと対峙してきた夫婦問題カウンセラーの高草木陽光さん。DVやモラハラという言葉が浸透しつつある今、シニア世代でも声をあげる人が増えている。

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