シニア世代の妻からの相談の中で共通するのが、夫の高圧的な態度や乱暴な言動だ。身体的な暴力があるケースもあるが、乱暴な言動に耐えかねて相談に訪れるケースが多い。リタイアした夫が家で過ごすようになり、ストレスを妻にぶつける例が多く見られるという。それも「リタイア後、突然豹変した」というわけではなく、現役時代から暴力的な“予兆”があった夫が、リタイアを機に、暴力的な面が一層あらわになるケースが多い。300人以上のDVや虐待などの相談を受けてきた心理カウンセラーの松林三樹夫さんは言う。「現役時代は外に働きに出ることで、自然と意識が外に向き、仕事などで発散できていたため、家での暴力的な面が抑えられていた。ところがリタイアして夫婦で顔を合わせる時間が長くなることで、妻に対して乱暴な言動を繰り返してしまう。思いを発散させる場所がほかになくなり、妻を標的にしてしまうのです」

 妻に暴力的な言動を繰り返す夫の背景には、昭和的な上意下達の組織風土で培われた精神も見え隠れする。会社では、上層の意思によって下層が動くのが常。それが当たり前の世界で生きるうち、いつしか家では外で金を稼ぐ自分が「上」で、妻が「下」という構図になる。それゆえに、「妻が自分と対等な立場で物を言うことが我慢できない」という夫もいる。

「俺の言うことを聞けないなら出ていけ、俺の言うことに逆らうな、という夫はまさにこのタイプ。妻としては意見を言っただけなのに、夫から見れば“何を生意気な”となる。これまで外で頑張ってきた自分に、妻が従ってくれることが当たり前と思っている」(松林さん)

 こうなると、夫のリタイア後、妻にとっては耐え難い時間が続くことになる。妻の多くが、「せめて定年後は夫が穏やかになり、自分を受け止めてくれる」ことや、「仕事を辞めたら家のことを手伝う」ことを期待して、必死に我慢を重ねる日々を過ごしてきた。ところがリタイア後、その言動に拍車がかかる夫を前に、「これ以上耐えられない」と家を出る決断をする妻が少なくないという。

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